■リヴァイアサン大祭『妖精に祝福されし秋桜と白き狼』
リヴァイアサン大祭の夜のことである。ネスはシアリズの手を優しく握りしめ、ウェンディの森へと連れ出すと、神秘的な光があふれる木々の中をゆっくりと歩み始めた。今日はパートナーとして絆を深める特別な日。相手に伝えたいこと、いや、伝えなくてはならないことが沢山あった。2人は手を離すと、しばらくの無言が続いた。ドキドキと心臓の音がする。最初に口を開いたのはシアリズの方であった。「ネスさん、あのね」
シアリズは、ぽつり、ぽつりと自分の過去を語り始めた。自分が幼い頃、両親が亡くなったときにエンドブレイカーとして目覚めたこと、見える世界が変わったことで生まれた村から捨てられたこと、それから大切な人達に出会えて立ち直れたこと。
「だからね、わたし、ネスさん達と出会えたことに、とっても感謝しているの」
「俺もだよ、シア」
ネスは語る、奴隷によって構成された傭兵団にいたこと、その中に親友がいたこと、彼のおかげで皆が希望を持てたこと、そして皆死んでしまったこと、自分は彼らのためにただ生きてきたことを。
「悩み続けた10年だった……」
どこか寂しげな表情で彼は微笑む。
(「そう、その頃に俺はシアと出会ったんだ」)
シアリズは内気なところもあるが、素直で明るい少女であった。でも本当は心に傷を負いながらも、前向きに生きている。まるで彼女自身が好きな秋桜の花のようだ。ネスは何気ない日々の中で、彼女に元気を貰っていた。多くのことに素直に喜べるようになっていた。そして、次第に愛という感情が芽生え始めていたのだと気付いた。
(「俺は彼女に、この気持ちを伝えなければならない」)
「シア……」
意を決して、彼女の名を呼ぶ。ネスは恋の表現が上手いわけではない、だが伝えたかった。シアリズもまだ恋の感覚はよくわからない、でも受け止めたかった。誰よりもお互いを大切に思っているから……。共に生きてゆくことを誓ったこの日、一人のスカードの元で一人のガーディアンが生まれた。
「これからもよろしくね、わたしのガーディアンさん」
「ああ、よろしくな」
シアリズの手には白き狼のペンダントが。そしてネスの手の中では硝子で作られた秋桜が輝いていた。