■リヴァイアサン大祭『鮮血の絆』
『……わたしを、ガーディアンにしてほしい』年に一度のリヴァイアサン大祭。サイレントが『マインド』を用いてアレサへと告げたのが全ての始まりだった。
その申し出を承諾したアレサは、彼女と『儀式』を執り行うべく、エルフヘイムのあちらこちらで人々が浮かれ騒ぐ中、そうした喧騒とは全く無縁の静かすぎる屋敷の一室にサイレントを招き入れたのだ。
「わざわざこんな方法だなんて――」
アレサはおかしそうに笑いながら言い、勿体つけるように途中で言葉を切る。
その口調と態度こそ丁寧だが、言動と雰囲気は妖艶そのもの。サイレントを見る目はどこかピュアリィじみている。
「――お互い、普通ではありませんね」
小作りなサイレントの頭と細い首筋にそっと腕を絡め、手を添えながらアレサは彼女の耳元へと唇を近付けてから、先程あえて切った言葉の続きを妖艶な声音で語りかける。
ゆっくりと囁かれるアレサの言葉が続く間、サイレントは身じろぎ一つせず、ただ聞き入っていた。そして、耳元での囁きが終わると共に静かに頷く。
サイレントが他ならぬアレサの血を飲む――それが、彼女たちがこれから行おうとしている『儀式』だ。
まさにアレサの言う通り。二人で共に生きることを誓い合う為に『血を飲む』という行為をするなど、普通ではない。
アレサの腕にそっと抱きとめられたままの頭と首をかすかに動かして、サイレントは彼女の首筋へと形の良い唇をあてがう。
それが、『儀式』の始まりを告げる合図となった。
もとより心身の準備が整っていることを告げるようにアレサがサイレントの後頭部に添えた手で彼女の髪を撫でると、彼女の意を受け取ったサイレントは唇を開き、剥き出した歯をすらりと伸びた白い首筋に立てる。
あたかも熱に浮かされたように頬を紅潮させ、ぼうっとした瞳でアレサの白い首筋を見つめながらサイレントは細い首筋を小さく鳴らしてアレサの身体を流れる血を嚥下していく。
『……たとえどれだけ離れていても、わたしはあなたで、あなたはわたし』
首筋に触れた唇から、『マインド』による彼女の声がアレサへと伝う。
「はなしませんよ? あなたがこころがわりしたって、そうかんたんにはにがさない――」
『……ん。ずっと、にがさないで』
互いに熱に浮かされたような表情で言葉を交わし終えたのを合図にサイレントは唇を放し、二人にとって契りとなる『儀式』を終えた。
『儀式』を終えてもその余韻が残るのか、サイレントは相変わらず熱に浮かされたような瞳だ。それを満足げに眺めながら、アレサは熱い吐息を吐く。
やがてその余韻も引いてきたのか、次第に焦点の合ってきた目でアレサを見つめながら、子供らしい笑顔を見せるサイレント。そして、それを見つめるアレサも笑顔を見せる。
こうして、二人は互いに共に生きることを誓い合った。
いつか死が二人を分かつまで、交わされた契りが変わらぬものであらんことを。