■リヴァイアサン大祭『騎士へ贈る、瑠璃の加護』
1年に1度、12月24日だけ半実体化する『水の星霊リヴァイアサン』のもたらす様々な変化を楽しむ祭り、リヴァイアサン大祭。エルフ達がパートナーとの絆を深めるこの日、エンドブレイカーもまた大切な友人、家族、あるいは恋人と思い思いにこの特別な夜を過ごしている。
ラヴェインとヴィクトリカもまた、その中の1組だった。
「はい、ヴィー」
「え?」
夜もふけてそろそろ帰ろうかという矢先、照れ臭そうに何かを差し出してきた幼なじみに、ヴィクトリカは目をしばたかせた。
彼の手の中にあるのは、ヴィクトリカのドレスの装飾に合わせたような白い花を使った小ぶりのブーケ。
喜んでくれるだろうかと、期待に満ちた青い瞳がきらきらと輝く。
「ヴィー、こういうの好きだろ?」
「……まあ、悪くはないわね。貰っておくわ」
素っ気なく受け取るヴィクトリカ。
でも、長年ずっと見続けてきたラヴェインには、彼女がとても喜んでくれていることが手に取るようにわかった。普段はクールな口調だから誤解されがちだが、実はとても照れ屋なのだ。
「で、ヴィーからプレゼントは?」
「考えてなかったわ」
「えー!?」
そんな彼でも、これはさすがに落ち込んだ。
年に1度の特別な夜に2人で過ごすのだから、期待するのも無理はない。約束したわけでもなし、仕方ないのだが……。
「それなら、夜も遅いしそろそろ帰ろうか……」
一緒に過ごせるだけで満足だ、と何とか心に折り合いをつける。プレゼントが貰えなかったくらいでへそを曲げるのは、騎士道の精神に反するというものだ。
「それじゃあ家まで送っていくから」
「……ラヴィ」
「え、なに?」
静かな声で呼ばれて振り返る。
――思ったよりも近くに、彼女の藍色の瞳があった。
シャラ……と、澄んだ音が耳に心地よく響く。
微かに首筋を掠めた小さな手は寒さ、あるいは緊張で少し強張っているようだった。
「ヴィー、これって……」
不意打ちでかけられたのは、クロスのペンダント。中央にはラヴェインの瞳を思わせる青い石が施されている。
「もらいっぱなしって訳にはいかないしね。別に、ラヴィの為に用意していたわけじゃないわよっ」
言葉だけならむすっと怒っているように聞こえるが、赤くなった顔はどう見ても照れている。ラヴェインは顔をほころばせた。
本当はラヴェインのことを憎からず想っているのに、なかなか素直になれないヴィクトリカ。そんな不器用で優しい彼女を守りたいと、改めて思う。
「ありがとう。ヴィー」
幸せそうに笑ってペンダントを手に取る少年の姿に、少女は小さく微笑みを浮かべた。
やがて、そう遠くないうちに、ラヴェインは気がつくだろう。
ペンダントの裏に、普段は言葉にはされない、心からの想いが綴られていることに。
『ヴィーからラヴィへ、瑠璃の加護がありますように』