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ふたりのリヴァイアサン大祭

手の中の小さな温もり・クィ
穏やかなる・エトワール

■リヴァイアサン大祭『 愛の温度 』

 雪が、舞う。
 夜の帳が降りた公園。街灯が白く染まる世界を照らす中、一組の兄妹が落ち合っていた。
「エトワールお兄ちゃん、ハッピーリヴァイアサンなんだよう♪」
 小柄な体の少女、クィが見上げながら微笑む。見上げた視線の先には一人の男性。少女が兄と慕うエトワールが居る。エトワールもまた、少女を見下ろしながら優しげな笑みを浮かべている。
「そうですね。今日は大切な日。大事な日。リヴァイアサン大祭……今日という日を迎えれて、良かったです」
「うん!」
 エトワールの微笑に、クィが満面の笑みで返す。
 共に、危険と隣り合わせの日常を生きるエンドブレイカーの身。傷つき倒れる日が何時訪れるとも限らない。だから、今日という日を迎えられた事を大事に思うのだ。儚く消えるかも知れない日常で生きているが故に。今、この時の輝きを胸に抱いて。
「これ、つまらないものですけど……、クィさんの為に編みました」
 しゃがみ込み、クィと視線を同じくしたエトワールが、網目の揃ったニット帽を被せる。耳の付いた、雪のように白いニット帽はクィに良く似合う。その、クィの為に仕立て上げられたかのようなデザインは――紛れもなくエトワールの手製である証拠。
 言葉だけでなく、その形と温もりで確信できる。クィの為だけに編まれた帽子なのだと。
「つまらないなんて……そんなことないんだよう。エトワールお兄ちゃんの手作りくまさん帽子、とっても素敵なんだよう♪」
 兄妹だから、なのか。それともクィ自身がエトワールを信頼しているからなのか、首を振って控えめなエトワールの言葉を否定する。
 値段の付けられぬ価値が、この帽子にはある。見た瞬間に、クィはその事に気付いた。
 だから彼女は笑顔で。帽子に付いた耳を触りながら、心底嬉しそうに微笑む。
「少しじっとしていてくださいね。今、結びますから」
「あ……うん」
 優しげに、帽子のあご紐を結ぶエトワール。
 その間、クィは瞳を閉じて、ただ静かに黙っていた。
 エトワールが結び易いよう、足を少しだけ爪先立ちにして。
 やがて、一連の動作は終わる。帽子を被せて貰ったクィと、被せ終わったエトワールの姿だけが残る。
「えへへ、似合うかな……エトワールお兄ちゃん、だーいすき♪」
 軽やかな声と共に抱きつくクィ。エトワールは、そんな妹の行動を優しく見守り頭を撫でる。
 吐く息が白く染まる。雪降る歌が街に広がる。寒い空気は――けれど二人の温もりで暖かく。
「来年も……一緒に過ごそうね♪」
「ええ……必ず二人で過ごしましょう」
 強く握った手と、強く交わした約束を胸に――兄妹の夜は更ける。
 来年再びリヴァイアサン大祭を迎えられるかどうか、それは現時点では分からない。けれど願わくば、来年も、そしてその先も、今日と同じような日を迎えられるように二人は願う。

 二人がそんな未来を祈りながら……白く染まった街の夜は、更けていく。
イラストレーター名:えいちエイ子