■リヴァイアサン大祭『勝負の行方。奢るのは…』
赤く染まる夕日が沈んでいく中、二つの影が駆ける。(「絶対に負けたくない!」)
サクノスは、目の前を走るトールの姿を見て思う。
煌びやかに彩られた巨大樹のツリー。その頂上を目指し、二人は疾走していた。
「肉、焼肉、焼肉!」
それは魔法の呪文。サクノスが食べたいと願うメニューである。何回も唱えることで、彼女は走る原動力としていた。その呪文をもって、彼女は全速力でトールを追いかける。
しかしながら、トールは速い。二人の差はなかなか縮まらなかった。トールは後ろを振り返り、サクノスを見て微笑む余裕すらある。
(「うう、負けちゃうかな……」)
サクノスの脳裏に諦めの文字が浮かぶ。そう思った彼女の目に、トールの背中に貼った紙に書かれた文字が飛び込んできた。
『タダ飯』
その文字が、サクノスの体から彼女に不思議な力を呼び起こす。あっという間に彼女はトールとの差を詰め……。
「タダ飯ぃ〜〜〜!!」
サクノスはトールをいとも簡単に追い越した。
「な、何っ!」
先程までトールがリードをしていたこの勝負。勝敗はタッチの差で、サクノスに軍配が上がった。
「やったぁ〜、勝ったぁ〜〜♪」
サクノスは思いっきり嬉しそうにガッツポーズをして、トールに見せつけた。
トールは、今何が起こったんだ……という顔で呆然としていた。しかしながら、彼は負けたことを把握すると、思いっきり悔しがる。
「チックショ、勝てると思ったのに!」
トールは懐から財布を取り出し、渋い顔をした。残金が心もとないに違いない。
「さ〜てと……、何を奢ってもらおうかなぁ〜♪」
おっにく、おっにく、おっにく〜とサクノスは鼻歌まじりの歌を歌う。
「自重しろよ? 遠慮しろよ? 太るぞ?」
「その分、運動したも〜ん♪」
サクノスは遠慮する気なんて、これっぽっちもない。折角なのだから、おなか一杯トールからご馳走になろうと思っていた。
気づけばどっぷりと日が暮れていた。
暫くの間、二人はそのまま星空と大祭の喧騒を見物する。
「帰りは散策がてらゆっくり降りようぜ」
駆けてきた道を、のんびり降りていくのはまた一興というものだ。サクノスは首を縦に振る。
「その前にごめん。トールに一つ謝らなきゃいけない事があるんだけど」
「?」
トールはサクノスが何を言い出すのか、まるで分かっていない様子だ。
「背中にさ……」
「背中?」
サクノスはもはや、口元の笑みを隠しきれずにいる。トールはそれを訝しみつつ、背中に手をやると、そこには紙の手触りが……。彼はそれを正面へと持ってきて、紙に書かれた文字を見る。
「――アホか!」
トールはその紙をくしゃくしゃと丸め、サクノスへと投げつける。サクノスにその紙が当たると、サクノスは堰を切ったかのように笑い出した。
「はははははははは!」
リヴァイアサン大祭の夜は更けていく。二人に一つの思い出を残して……。