■リヴァイアサン大祭『お手をどうぞ』
「この雪ももう少しで見納めか……本当、夢みたいな一日だったな」ビオフィールが見上げた空は暮れなずみ。
特別な今日1日降り続いた雪は、未だふわりふわりと舞い続け、辺りの景色はすっかり一面、雪化粧がほどこされている。
「あっちゅー間に日が暮れちゃってまー……。一日ぽっきりなんて寂しい事言わず、2日位お祭りでも良いのにねぇ……」
「あっはっは、確かにあと一日位あったっていいのになぁ。……寒いのがちょっと難点だが」
残念そうなエシラの呟きに、ビオフィールは一つ頷いて笑う。
星が煌めく藍色の空に、星霊リヴァイアサンが飛びまわっている。
冬に入ったこの季節、日も暮れた頃合いに、積もった雪もあいまって、吐く息は真っ白。繋いだ手が温かいから、凍えることはないけれど。
「おーいリヴァイアさーんッ! もう一日位飛んでても良いのよー!」
1日中飛びまわっていても、なお元気に翔け飛ぶリヴァイアサンへ向かい、エシラは手を振る。
「おっと、この辺りは雪が深そうだ。足元注意しねぇと……っておい!?」
空を見上げて、おーいおーいと手を振り跳ねるエシラへ、ビオフィールが声を掛ける。
「え? よそ見しながら歩いてたら危ない? 大丈夫! ホラ手ぇ繋いでるしねー……へぶッ!?」
ビオフィールの注意も上滑りし、エシラは派手にすっ転ぶ。
大丈夫という保険は、一蓮托生のもろ縄となり、結果ビオフィールもすっ転ぶこととなった。
「……っ痛ぁー、ってか冷ッ! ご、ごめんビオフィ大丈夫ーッ?!」
「っ痛ー……いや、大丈夫。雪まみれにはなったけどな。エシラも大丈夫かー?」
思い切り転んだためか、全身雪まみれになったようで、案じながらもエシラを見やれば、彼女は慌てて首を横に振る。
「そんな『言わんこっちゃない』みたいな目で見ないで! ごめんってば! ち、違うんだ、なんか此処穴みたいなんが……」
弁解しながらエシラが雪を払ってみると、そこには……。
「やっぱりー! 子供達の悪戯かしらねぇ、草と枝で……く、中々よく出来てるじゃないの!」
「ああ、なるほど。掘った落とし穴、雪に埋まっちまって元に戻しそびれちまったんだな。仕方ねぇなぁ……」
苦笑しながら立ち上がったビオフィールが、転んで座り込んだままのエシラへと手を差し出した。
「ほれ、掴まれ」
「ん? 手? あっは、ありがとー。あらやだ、ちょっと王子様とお姫様みたいじゃなーい?」
「……くくっ、どういたしまして。今日は俺が手を差し出す番。いっつも差し出されっ放しだったからなぁ、ここらでお返し、だ」
差し出された手をみて、楽しそうに笑うエシラへ、ビオフィールが小さく微笑んだ。
ぞんざいな口調はいつも通りのものだけれど、微笑みはどこか照れくさそうで、エシラもつられる様に笑って、手を重ねる。
「よっこらしょッ!」
「うわっ、台無し!」
「何をー?!」
お互いの軽口に対し、雪を払う手は優しかった。