■リヴァイアサン大祭『願い』
「綺麗だね〜」フワフワと舞い落ちる雪を、アルチェステラとクロイツは静かに見上げている。
「ああ……。そうだな」
アルチェステラの言葉に、クロイツも頷く。白く柔らかい雪は止めどなく降り続ける。手を出すと、雪が掌に落ちて来た。雪はすぐに掌の体温で溶けて消えてしまった。
「あ……」
ふと、その消えた雪を見て、胸が苦しくなった。何だろう……。昔、とても悲しい事があったような気がする。よく覚えてないが、前にも同じような事があった。この雪と同じように大事な何かを失ってしまった。
「ステラっ!」
気が付くとクロイツは、アルチェステラを抱きしめていた。突然後ろから抱きしめられたアルチェステラは驚いたように振り返った。
「クルツ?」
ただならぬ様子に心配そうに声をかける。クロイツの身体が震えているのが解る。
「一人に、しないでくれ……。一人は……嫌だ」
今にも泣きそうな消えてしまいそうな声でそう言う。どうしたの? 何をそんなに怖がっているの? アルチェステラはクロイツを安心させるように腕をぽんぽんと軽く叩く。
「大丈夫……だよ」
大丈夫。その一言にクロイツの目から涙が零れた。言葉にしなくとも、ずっとここにいるよとアルチェステラの温もりが教えてくれる。嬉しさと愛おしさでクロイツは彼女を更に強く抱きしめた。
「クルツ! 見て!」
突然、アルチェステラは声を上げた。その声に顔を上げると、夜空にリヴァイアサンが飛んでいるのが見えた。あまりの美しい光景にクロイツは息をのむ。
「綺麗……」
(「お願いです。ずっとステラと一緒にいさせて下さい」)
その光景を見つめながらそう夜空に祈る。すると、それに答えるかのようにアルチェステラが手を握って来た。
「ねぇクルツ。ボクはね、ずっとずっとクルツの側にいるよ。この綺麗なリヴァイアサンのように、ずっとクルツの側で輝き続けてるからね」
そう言ってにこりと笑うと、クロイツは少し照れながら微笑んでくれた。
「ありがとう。そうだな、俺たちはずっと一緒だ。この雪が溶けてしまっても、俺たちの愛は永遠に消えたりしない。愛してる、ステラ」
そしてまたぎゅっと抱きしめる。この温もりは決して忘れない。
恋人達の幸せを祝福するかのように、リヴァイアサンが二人の周りを飛んでいた。