■リヴァイアサン大祭『いつか見た星の下で』
冴え冴えと澄んだ空気が星の輝きをより一層際立てる。吐く息も白く染まり、冷たい風が頬を撫でれば意識せず目を細めずにはいられない。夜空を、二人で見上げる。
「寒く、ないかな?」
小さな声でイルーシェンは問いかけた。その問いに、ディアーヌは瞬くと「私は大丈夫だ」と応じた。
(「いつの間にか、こんなにも頼もしくなったんだな、イル」)
ディアーヌは同じくらいの目の高さのイルーシェンに笑みを見せる。
変わりゆく時代の中で、変わらないものなんて無いのかも知れない。
それでも、ディアーヌのイルーシェンを想う心だけは、いささかも揺るがず不動のものだった。
何年越しかの、再会。――こんな気持ちになるとは、思っていなかった。
恋しい、愛しい、大切……どの言葉でもあり、どの単語でも足りない。
(「二人の関係を、少しだけ前進させても、いいんじゃないかな?」)
ディアーヌはそっと、イルーシェンの首のマフラーを締めた。
「イル」
静かに、ディアーヌはイルーシェンの名を呟く。
微かに触れた指先の熱と視線の柔らかさ、そして優しい呼びかけにイルーシェンは少しだけ、息を詰まらせた。
(「あの頃は、またこんな風に二人でいられる日が来るなんて思わなかった」)
こんな風に、出かけたりするようになるなんて思わなかった。
お互い小さかったけれど……姉のような存在だったディアナがこんなに綺麗になるなんて思ってなかった。
……こんなにも『特別』な人になるとは、思わなかった。
「ありがとう」
イルーシェンはマフラーを整えてくれたディアーヌに礼を言いつつ、その手を取った。触れ合い、イルーシェンが少しばかり指先に力を込めると互いの熱が広がる。
(「また会えて、一緒にいられるだけでも嬉しい」)
さわりと風が吹いた。
二人の頬を撫で、ゆるく髪をもてあそぶ。
「静かだね」
手を握ったまま、イルーシェンはささやくようにこぼした。
指先の温もりに、ディアーヌは細く息を吐く。
「……そうだな」
二人だけのリヴァイアサンの丘。
静かで会話も途切れがちで……でも、こんな時間がとても大事だな、と思う。
隣に君がいる。
それだけで……けれど最愛の人が傍らにいる、かけがえのない時間だった。