■リヴァイアサン大祭『リヴァイアサン大祭とウサギリンゴ』
リヴァイアサン大祭当日。ウェンは一人で街を歩いていた。こんなにぎやかな日に一人の予定ではなく、パートナーであり、今回彼女を大祭に誘ったマークスと一緒であるはずだったのだが。(「やれやれ。リヴァイアサン大祭に誘った当人が、当日ぶっ倒れるなんて聴いたことないぞ」)
深いため息をつき、冬道を歩く。まあ、ぶっ倒れたと聞いたし。ハニーバザールでいいリンゴが手に入ったし……見舞いにいくとしようか。てくてくと歩いていった先には……一軒の家があった。
一方のマークスのほうはというと、熱を出してぐったり寝込んでいた。水色無地のパジャマは汗でぐしょ濡れである。せっかくウェンを誘っていたのにこの様だ、と思うと悲しいものの、正直体を動かしたいような状況でもなく。
(「嫌われただろうなぁ」)
後悔の深いため息が漏れる。ああ、なんでこんな時になんて、お祈りすら忘れて後悔していると突然、家の扉が開いた。
「体調よくなったか?」
安否を気にする言葉と共に扉をくぐってきたのは、つい今しがたまで思い悩んでいたウェンその人だった。突然の来訪に混乱するマークスを尻目に、くるりと部屋の中を見回すウェン。とりあえず身を起こした彼の様子をちらりと伺った後、彼女はコートを脱ぎ、壁にかけた。
「え……あ、ああ、心配掛けさせてゴメンな。具合はかなり良くなったぜ」
マークスは一瞬言葉を失った。それは彼女のコートの下が、施療院などで見かける看護師の服装だったから。それがとても似合っていたから。
「私の服装はまあ趣味か? この方が大人っぽく見えるだろ?」
女医さんとか、かっこいいだろう? そんな言葉を継ぎ足したウェンは彼の視線に気づき、少し胸を張る。見とれていたマークスも、はっと我に帰った。
「ああ、知的な感じがしてイイと思う」
素直に正直に、言葉が出てきた。彼女の新しい魅力をまた一つ見る事ができたのは、結構嬉しい。彼の言葉に、ほんのちょっと、彼女の顔が赤くなる。ウェンはそのままごそごそと袋を漁り、ハニーバザールで手に入れた新鮮なリンゴとナイフを取り出した。
「何も食べていないだろ。少し待て」
ベッドの近くにあった椅子に座り、ウェンはぽつりと呟く。しばらくの間しゃりしゃりとリンゴをむく音が室内に響く。ちらり、とマークスをジト目で見上げ、かわいらしくウサギ型に切ったリンゴを突き出した。
「……早くよくなって、また遊びに行こうな」
どんなに楽しいお祭りでも、一人では物足りないから。二人なら、きっと楽しいから。
「そうだな。そのときは風邪で倒れないように気をつけよう」
今度は、パートナーを一人にさせないように。カッコ悪いとこを、見せないように。二人はリンゴを齧りながら心の中で祈る。次のお祭りは、二人で楽しめますようにと。