■リヴァイアサン大祭『メリーリヴァイアサン』
「ハッピーリヴァイアサン」ローが扉を開ける。扉の向こうには、ケーキと思われる箱と、綺麗に包装された何かを持った、リアナルベルタの笑顔があった。
「……」
リアナルベルタの顔を見た瞬間、ローの顔は『嫌な相手が来た』と言わんばかりに歪む。何も見なかった事にしてしまおうと、扉を閉めた。
――ガツ。
閉めようとした扉は、何かが挟まって、きちんと閉まらない。見れば、リアナルベルタの足が挟まっている。故意的につま先を滑り込ませて、扉を閉めるのを阻止している障害物だ。
「帰れ」
嫌そうな顔のまま、ローの冷たい声が投げつけられる。次の瞬間、
「くしゅん」
くしゃみをしたローは更に不機嫌そうだ。くしゃみの理由は、リアナルベルタの髪飾りの羽根。ローは羽毛アレルギーなのである。
「寒いんだから早く入れてよ」
「じゃあ帰れ」
どちらも引かない。扉に挟んであるリアナルベルタの足も、扉を閉めようとするローの手も、力が拮抗して、扉は動かない。
「入れてっ……てばっ!」
この時、リアナルベルタの力が勝り、招かざる客は、無理矢理部屋に入ってきた。
その瞬間、ローの眉間のしわが更に深くなったのは言うまでもない。
「何しにきた」
仏頂面のローが訊ねると、
「リヴァイアサン大祭だからケーキ。後、明日あんたの誕生日だから兼用」
そんな不機嫌なローの表情とは正反対に、リアナルベルタは明るい笑顔で持っていたケーキの箱を少し持ち上げて、そしてテーブルの上に置いた。
「……誕生日って何のことだ?」
「だから明日あんたの誕生日でしょ」
「何でお前が知ってんだよ」
「偶然じゃない?」
そんな問答をしながら、リアナルベルタががケーキの箱を開けると、出てきたのはカステラ。
「……………おい。お前、ケーキって言ってなかったか」
「卵と小麦粉使ってるんだからケーキと同じでしょ」
「………はぁ、もういい。これ食ったら早く帰れよ」
深く溜息をついたローは、早く追い出したい一心で、切り分けて、用意した皿に乗せる。そこへ、リアナルベルタがキャンドルを立てて火を点した。
「ほら、ケーキっぽい♪」
「はいはい」
楽しげなリアナルベルタと、不機嫌を通り越して脱力しているロー。二人でカステラを食べていると、
「あ、そうだ」
思い出したようにリアナルベルタが綺麗に包装された何か――プレゼントを取り出し、
「ハッピーバースデイトゥーユー!」
それを手渡し…ではなく、ローの顔面に投げつけた。ローの顔面にクリーンヒットした瞬間、物凄い勢いで止まらなくなる。くしゃみが。
「帰れ! 二度と来んな!」
投げつけられた羽毛枕に、ローが切れたのだった。