■リヴァイアサン大祭『米酒は常温で……?』
トクトクトク……と独特の音をたてて透明な酒がグラスに注がれていく。米で造った酒は冷やして良し温めて良し、常温で飲んでもおいしいという優れものだ。「さあさあ飲むにゃ飲むにゃ。今日は飲み明かすのじゃー」
グラスから溢れんばかりの勢いで米酒を注ぐナリュキ。
「おっとっと」
杯を受けるルカはグラスを持ち上げるようにして酒の瓶に押しつけ、瓶の口を上げさせる。なみなみと注がれた米酒に口をつけ、ルカは満足げな息をついた。
「はぁ、美味しいね〜。普段家ではあんまり飲めないから、こうやってナリュキと飲めてうれしいよ」
「妾もお主と酒が飲めて満足じゃ。遠慮なく杯を干すがよいぞ」
「もちろん! じゃんじゃん飲むよ〜」
水の上位星霊リヴァイアサンが空を舞う夜。エルフヘイムは冷え切って、白い雪がしんしんと降り積もる。ナリュキとルカは暖炉の火でじゅうぶん暖まった部屋の中、とりとめもなく語らい、グラスを重ねる。米酒の瓶がどんどん軽くなり、ふたりのテンションはどんどん上がっていった。
「にゃあ〜? もうしゃけがにゃいのぅ」
ろれつの怪しくなったナリュキが、空になった瓶を名残惜しげに振る。最後の一滴がぽちょんとグラスに落ちた。
「えーもう〜? 僕まだまだいけるよ〜?」
まだいける、と言うわりに、ルカの目はとろんと半眼になっている。むべなるかな、床に転がる空き瓶は相当な数だ。
「ひんぱいにゃいのじゃ〜。かいにいくのじゃ〜」
「やったぁ〜行こう行こう〜」
のそりと立ち上がって玄関に向かうふたり。ちなみに部屋着、というかほぼ下着の状態である。酔み続けるうちに暑くなって脱いでしまった。このまま外に出るのは自殺行為だが、すっかり泥酔したナリュキとルカにそんな冷静な判断はできない。
一歩外へ出ると、凍てついた夜気が半裸のふたりに襲いかかった。
「にゃはは、ひもひよいのぅ〜」
「あはー、ほんと、すーずしーい」
酔っぱらいは皮膚感覚すら麻痺している。
ナリュキとルカは千鳥足で前に進む。空瓶を振り回し、ほぼ怒鳴るに等しい調子外れの歌を歌いながら、肩を組んであっちへフラフラ、こっちへフラフラ。何事かと戸口から顔を出したエルフたちも、相手が酔っぱらいと知るや関わりを避けてそっと扉を閉ざした。
「おみせぇーまだつかないのぉー?」
「ふひぎじゃのう〜こんにゃにとほかったかのぅ〜」
「ナリュキぃ〜、ぼくなんだかねむくなってきた……」
「わらわもめのまえがぐるぐるするのじゃ〜しゅこしやしゅむかのぉ〜」
ばたり。
降りしきる雪の中、ナリュキとルカは折り重なるように転がった。その次の瞬間には、どちらも深い眠りの底。これを行き倒れと言わずしてなんとしよう。
そんな切迫した事態など知らぬげに、下着姿で健やかな寝息をたてる酔っぱらいふたりであった。