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ふたりのリヴァイアサン大祭

白の華・ルシャ
黒の大樹・スティン

■リヴァイアサン大祭『祭りの夜の帰り道』

 星霊リヴァイアサンが空を舞う夜。年に一度の大祭に賑わう街を、買い物を済ませた二人が歩く。と言っても――荷物を持つのは義兄のスティン一人で、義妹のルシャは大荷物を見ても知らぬふりを決めこんでいる。
(「せっかく今日のために誂えたのに、気がつきもしない罰ですわ」)
 義兄に褒めてもらうどころか、気付いてすらもらえない新品の外套をふわりと翻しながら、ルシャはスティンの前を歩く。スティンはスティンで、いつもなら自分を気遣って荷物を少しでも持ってくれるはずの義妹の不機嫌な様子に、首を傾げるばかりだ。原因が己の鈍感さにあるとは、思いもよらない。

「――折角のお祭りの夜なのに、共に過ごす女の人もいないのですか」
 先を行く足を止めずに、ルシャがスティンに向けて言う。
 二十代半ばを過ぎて未だに独り身な兄を案じているのか、それ以上の思惑があるのか、からかうような義妹の口調からは判断できない。
「お前の方も、特に過ごす相手はいないようだが……」
 小柄な体格のため少女のように見えるルシャだが、彼女も立派に成人と認められる年齢である。だから、スティンはそう答えたのだったが――義妹から返ってきたのは、さらなる反撃の一言だった。
「私は……兄さんが結婚するか、せめて恋人ができるまでは、そんな気にはなれませんわ」
 軽く溜め息をついた後、スティンは義妹の小さな背中に語りかける。
「まぁ、その辺はお互い様だな。どうしようもなくなったら、二人で一緒になるのもいい手かもしれんぞ」
 瞬間、ルシャの足が止まった。
「そんなこと言われても、その……」
 スティンを振り向き、かすかに頬を染めながら口ごもるルシャ。そんな義妹の様子を眺めつつ、スティンもようやく気付いた。
「――そういえば、外套新しいの作ったのか。良く似合っていると思うぞ」
 いつもは鋭い彼の瞳が、優しげにルシャへと向けられている。こみあげる嬉しさを抑えきれず、ルシャはスティンの方へ手を伸ばした。
「荷物、少し持ちますわ」
 ウェーブのかかった金の髪が、彼女の笑顔を柔らかく縁取る。
 いきなり機嫌が良くなったルシャを見て、やはり、よくわからんなぁ――と、内心で呟くスティン。
 義妹の上機嫌の理由が己の言葉だとは、相変わらず気付けない彼だった。
イラストレーター名:乙部はるきち