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ふたりのリヴァイアサン大祭

見習いメイド・マナ
失われた皇帝・クラトス

■リヴァイアサン大祭『フラグ』

 ――しゃこしゃこしゃこ。
 背中を泡立てる音が、露天風呂内に響く。
 リヴァイアサン大祭の日。一組の男女が水着を着用し、暖かな湯船を堪能しながら穏やかな時間を過ごしていた。
 女性――まだ女の子と言える幼さを残したマナの背中を、丁寧に優しく洗う男性、クラトス。マナは膝を丸めて座り込み、されるがままに背を洗われる。クラトスの洗い方に対する不満も無く……正確には、洗い方について考えている余裕が今のマナには無い。
 座り込んでいるマナの顔は、薄っすらと紅潮しており、照れているのが一目瞭然であった。
(「……恥ずかしいですよぉ……」)
 頭の中を占めるのは、そんな単純な言葉だけだ。メイドとして奉仕する側に居る事が多いマナにしてみれば、今の奉仕されている状態は珍しく、そして落ち着かない。背中の開いたビキニタイプの水着を着用しているのも、羞恥を増長させる。素肌を異性に直接見せているのだから……年頃の女の子が恥かしがるのは当然であった。
 そのように身を小さくしているマナを洗うクラトスは――マナとは逆に、積極的であった。
(「……うむ、背中は洗い終わった。次はマナの成長を確かめ――もとい、前を洗ってやるべきだろう。日頃の感謝を込めて、全身をくまなく洗ってやるのは我の義務であるだろうしな……」)
 真剣な表情で考えている事は、セクハラ一歩手前で都合の良い事柄。無論、洗い方は丁寧そのもの。力任せにこすらず、マナの背中を奇麗に洗った手つきには優しさが溢れている――それは間違いないのだが、余計な感情までオマケで付いていた。
 クラトス本人にしてみれば、慎重に、決して悟らせないように、細心の注意を払って次なる箇所を洗おうと手を伸ばすのだが……内に秘めたるよこしまな気持ちが現れてしまったのだろう。マナが振り返り、クラトスを睨む。
「マスター! 今、何しようとしましたか!?」
「うおっ!? 待てマナ! 誤解だ! 他意はない! あろう筈がない!!」
「もうっ! マスターのえっちー!!」
 顔を真っ赤にして放ったマナのパンチが、クラトスの右頬にヒットする。不意打ち気味に攻撃を受けたクラトスは倒れ……そこで我に返ったマナが駆け寄る。
「ご、ごめんなさいマスター! あの……大丈夫ですか……?」
「う、うむ……ははは! 気にするなマナ。我も少し悪戯が過ぎたのだ。すまぬ、許すがよい」
 快活に笑い、マナのパンチを不問にするクラトス。思わず主人を殴ってしまったマナは、更なる羞恥から顔を赤く染めてしまう。
 そして再び、体を洗い始める二人。先程のお互いの行動を、文字通り水に流すように。
 主従の関係が逆転した一夜。泡と湯船に包まれて、二人の夜は更けていく――。
イラストレーター名:ゆく