■リヴァイアサン大祭『ジングル・ナイト』
チリン、チリン。跳ねるような鈴の音は、時には笑い声にも似ている。
華やかな飾りつけがなされた暖かな部屋。
パーティ真っ最中の室内でまず目を引くのは、中央にあるテーブルの上。料理の数々に加え、可愛いリヴァイアサンの飴細工が乗ったホールケーキ、マフィンにクッキー等々。
宝石箱のようなその光景を覗き込むヨシノの瞳は、それらと同じ位キラキラと輝いている。
隣でその瞳を眺めるのは、そんなヨシノを可愛くて仕方がないパパ――ケイ。……実の所二人は血縁関係にはないのだけれど、可愛いものは可愛いのだ。
ともかく小さく笑ったケイはフォークで器用にケーキを掬い上げると、ヨシノの口の前に持って行く。
「あーん」
眼前のふわふわのスポンジと甘いクリームに、ヨシノはめいっぱいの笑顔で大きく口を開ける。そして、はむんと一口頬張った。口の中に広がるふんわりとした甘さは格別で、ヨシノの顔は幸せの色に染まる。
それにつられてケイの表情もにへら、と緩んだ。次はフェイントしよう、と目論んではいたが、実行出来るかは怪しい所だ。
と、そんな彼の代わりにヨシノが何やら一生懸命にフォークを動かし始めた。
「今度は、ぱぱー!」
ややあってケイの口元に差し出されたのは、今にもこぼれ落ちそうな程にこってりと甘い蜜で包まれたケーキ。どうやらイタズラのつもりらしい。
しかしそれよりもケイは彼女からの「あーん」に感動してきゅん、としていたりするがそれは内緒だ。
ともかくヨシノの頑張りも無念。ケイは難なく一口でぺろりと完食してしまい、せっかくの作戦が失敗に終わったヨシノの頬がむむ、っとふくれる。されど諦めずに彼女が取った次の一手に、ケイの瞳が今度こそ驚愕に見開かれる!
「こ、これは……っ」
小さなフォークに乗り切っているのが信じがたいくらい、クリームたっぷりの渾身の一盛り。これを一口で食べるには、ちょっと人間やめないといけないかもしれない。そんなサイズ。
さぁぱぱ、クリームまみれに!
そんな声が聞こえた気がするが、ケイは負けられない。ぱぱですから。敢然と敵……もとい、ケーキに立ち向かう!
が、
「ぱぱ、お顔がすごい〜!」
……当然、勝者はヨシノだった。
「あー、格好悪いな」
苦笑して頬についたクリームを親指で拭うケイに対し、ヨシノはイタズラ大成功に満面の笑顔だ。
仕方なしにケイも笑みを返しながら、そっと目を細めた。
――本当は、今でも時折「ぱぱ」と慕われる事に驚くのだ。
ヨシノが純粋な気持ちは嬉しいのに、素直に手を伸ばせない自分もいる。それが酷く歯がゆいと感じる事もある。彼女のように、素直になれたら良いのに。
けれどヨシノの、この笑顔なら信じられる。
だから、な――。
声に出さずとも、想いが伝われば良い。そう思う。
けれどはしゃぐヨシノの愛らしい姿に、ケイの頬は自然と緩む。
笑い声溢れるジングルナイトは、まだまだこれから。