■リヴァイアサン大祭『藍と紅は氷宮を舞いて』
捧げられる祈り、奏でられる音楽、そして舞い踊る人々。リヴァイアサン大祭当日、氷の宮殿で開かれた舞踏会には、たくさんの人々が集っていた。各々が大切なパートナーや友人達と踊る中に彼らはいた。(「ふう……」)
セレスティアは、落ち着くために心の中で一呼吸。目の前にいるのは、少し気取って、少しおどけてみせたファルの姿。あの日、そう収穫祭の日にもダンスパートナーとして申し込まれた相手からの、再度のお誘いだ。
「セレスティア殿……否、銀の姫君。再度お手をお借りしても良いかの?」
ファルはそっと手を差し出し、相手の動きを待つ。彼からしてみれば、あの日彼女と踊った事が、昨日のことのように思い出せた。一歩ずつだが、着実に、ヒトとして生きている実感が増している。そんな気にさせてくれた印象的な出来事が収穫祭の踊りなのだから、もう一度、彼女と。そう思い、もう一度申し込んだ。
(「ええと、わたしが『姫』なら……」)
セレスティアは調子を合わせ、淡く笑みを返す。
「騎士様、よろしくお願いします」
そっとお辞儀してから、差し出された手を取る。釣られるように、ファルの表情も緩んでいく。彼の胸にも、熱い感謝の念が宿る。
「では姫君、こちらへ」
セレスティアにとって、彼は騎士様で……たとえ今だけだとしても、それは彼女の心も温かくなる。例え彼の笑みに、他意が無かったとしても。
(「私にとって、ファルさんは……」)
彼女の笑みは、照れたような、嬉しいような恥ずかしいような、それでいて静かに、穏やかに。僅かにまなじりを下げ、そっと唇をほころばせる。
(「毎度、付き合ってくれておる……有難い事じゃ」)
流れる音楽と共に、二人は踊り始める。軽くステップを踏み、一回り、また一回り。この舞は、いつ終わるとも知れず。ファルとしては、セレスティアとの関係に男女の深い意味合いは感じていない。しかし、二人で踊りたい、そう思う欲求は確かにあった。それ以上は……彼本人にも、よくわからない。
「姫、いかがかの?」
「ええ。楽しませていただいていますよ」
二人の足取りは緩やかで軽快なステップを踏み続ける。いつまでも、終わりなど無いかのように、くるくる、くるくると。周囲も微笑ましく、そして感嘆のため息を持ってそれを見守っていた。いつまでも二人は、踊り続ける。二人の気持ちがどこにいくのかは、まだ誰も知らない。空を飛ぶ星霊さえも。