■リヴァイアサン大祭『キャアッ!―曇った眼鏡で大惨事?』
リヴァイアサン大祭の日、温泉へと変わった泉のひとつをリェルとフェリシスは訪れていた。彼女と並んで歩いていると、知らず知らずリェルの顔には笑みが浮かぶ。
大切な人と2人だけのお出かけ、2人だけの温泉。まさか恥ずかしがり屋の彼女と一緒に温泉に入れるだなんて……まったくもって、リヴァイアサン様様である。
リェルは上空を舞う星霊リヴァイアサンを見上げると、ハッと表情を正す。
――いけない、いけない。こんな事を顔に出していては、男の沽券に関わるではないか。
きりっと姿勢を正すリェル。その様子に気付いているのかいないのか、フェリシスはリェルを振り返って、はにかむ。
「外は冷えますね」
「うん、少し寒いかな。早く着替えて温まろう」
「はい……」
それぞれ持ってきた水着に物陰で手早く着替えると、2人は温泉へ近付いていく。温泉の淵までやってくると、もうもうと空へ上っていく湯気と共に、じんわりとした温かさが伝わってきた。
あのお湯に浸かれば、さぞ気持ちいいことだろう。
さあ入ろう、と2人が足を早めた時だった。
「あら? 眼鏡が曇って良く見えな……キャアッ!?」
「フェリシスさん!」
湯気にすっかり曇ってしまった眼鏡と、濡れた足元が生み出したアクシデント!
うっかり滑ってしまったフェリシスの悲鳴に、慌てて助けようと手を伸ばすリェル。だが、彼女を咄嗟に抱きしめたものの、支えきれずに一緒になって倒れてしまう――!
「ぐあっ」
「リ、リェルだいじょ……ッ!?」
リェルの口から小さな悲鳴がこぼれた。すぐ下から聞こえてきたそれに、泣きそうな顔で心配するフェリシスだったが……彼女は息を呑んで、そして真っ赤になった。
自分を受け止めようとして、仰向けに倒れたリェル。その上に、思いっきり馬乗りになるような形で自分が倒れこんで、そして、その。
――アクシデントの末に、水着がとんでもない所に引っかかってしまい、とんでもない所がとんでもない状態になってしまっているではないか!
「リリリリェル!? 水着がズレて、ていうか、リェルのがあたって……っ!」
あわわわわわわ。
動転して思わず悲鳴のように叫んでしまうフェリシスの下で、相変わらずリェルは目を回したまま。すっかりのびてしまって気を失っている。
でも、パニックに陥ってしまっているフェリシスは、幸か不幸かそれに気付かない。
混乱のあまり、もがいて更にとんでもない事になってしまったり、恥ずかしい格好になってしまったりしつつ、フェリシスが落ち着きを取り戻すのは、まだもう少し先の事なのだった……。