■リヴァイアサン大祭『雪原でのひと時』
「ん、これ甘くて凄く美味いぞ! ティーファも飲んでみろよ」リヴァイアサンがもたらした一面の雪景色。
デュシークルスは、目の前の少女に、珍しく緊張でどもることなく言葉をかける。
「どれどれ?」
「っ!」
器を手渡す際に少女の指先に触れそうになり、慌てて落としてしまいかける。
慌てて前のめりになって落下を防いだティファナは、「危ないところだったね」とデュシークルスに何気ない笑みを向ける。
ゆっくりと傾けられるガラスの器。
少女の唇に吸い込まれた蜜が、そののどを小さく鳴らして落ちていく。
「あ、本当だ、あまーい。どうしてこんなに甘くなるんだろうね、不思議……」
「う、うん…………」
上品な甘さに笑みを浮かべつつ不思議そうに呟く想い人の横顔を見つめ、デュシークルスはこれまでの彼女との出来事を思い出していた。
もうずっと前だったような、あるいはつい昨日のようにも思える、はじめてあった時のこと。
旅団内において、ティファナを含めた女子に囲まれ、緊張のあまり気を失ってしまったこと。
料理を教えたこと。すぐに手順を飛ばそうとするティファナにはらはらしたり、出来栄えに満足気な彼女の笑顔に思わず見とれたり……。
彼女のためにぬいぐるみやマフラーを作り贈ったこと。
誕生日プレゼントをもらったこと。
「――? どしたの? デュー君」
「えっ!? い、いや、な、なんでもないっ!」
「?」
じっと見つめる視線に気付いたのか、振り向きいぶかしげな表情を見せるティファナに、デュシークルスは慌てて目をそらしてしまう。
「そ、それじゃ、そ、そろそろ雪像、を……見に行こうか」
「う、うん――っ、と?」
顔を背けたまま伸ばしてきた左手を取ろうとしたティファナだったが、掴むより早く引かれてしまい空を切る。
「ほ、ほら、早く」
「待ってよー、デュー君」
照れくさくて逃げ出してしまった少年の心の内にまったく気付かない少女は、空のジョッキを返すと急いで少年の後を追う。
いまだ止むことなく降り続ける雪が、二人の足跡をゆっくりと埋めていく。
(「こんな風に、俺達の距離もいつかは縮まるのかな」)
それにはもっと勇気を出さないと。分かっていながらもなかなか実行に移せないのが、デュシークルスなのだった。