■リヴァイアサン大祭『Present』
雪野原の舞踏会――その帰り道。夜道をタキシード姿のアセレアと共に歩きながら、桃色のドレスを纏ったチェルシーはいまだに少し夢見心地の気分だ。そのうえ一緒に参加したのは憧れの人だったわけで――感謝をこめて、チェルシーはアセレアの赤い瞳を見つめた。
「今日の舞踏会、本当に楽しかったです」
「素敵な舞踏会でしたね」
アセレアも微笑して頷く。大人びた笑みを見つめ、彼女も目を細めて答えた。
「また機会があったら行ってみたいです。今度はダンスももっと上手に……」
話しながらチェルシーは頬を僅かに染めた。ダンスの最中、彼の足を踏んでしまったことを思い出して――。
しかしアセレアはそのことなどまるで忘れてしまったかのように、ただ微笑む。
「ええ、またご一緒できたらいいですね」
そんな大人な仕草がやっぱり素敵で、チェルシーはますます憧れてしまうのだが――それは胸にしまって笑顔で頷いた。
チェルシーの家が近づいてきて、楽しい歩きながらのお喋りも終わりが近づく。
またすぐに会えると分かっていても、それでも少し寂しくて、彼女が彼を見上げた時だった。
「チェルシーさん、よかったら受け取って下さい」
彼は大きな包みを彼女の前に差し出した。
チェルシーはそれを両手で受け取りきょとんとした顔で彼を見上げた。
「なんですか?」
「プレゼントです。今夜のお礼に」
「ええっ」
我儘言って付き合って貰ったのにと、チェルシーは恐れ多い気分に包まれたが、――同時にとても嬉しくて。
「……えと、……開けても良いですか?」
「勿論、どうぞ」
「はいっ」
大きな包みを広げてみると、中から現れたのは――ヒュプノスの可愛い抱き枕!
ふわふわのもこもこでとっても可愛い!!
「わぁ」
可愛らしさに一気に表情をほころばせ、しかし次の瞬間、彼女は真っ赤になり、彼の服をぽかぽか叩いた。
「あ、あたし、そんなに子供じゃないです!」
「あれ? お嫌いでしたか?」
笑顔でその攻撃を受け止める彼。チェルシーは頬を膨らませ、彼の腕の中のヒュプノスぬいをじっと見つめた。
「……き、嫌いじゃないですけど」
「じゃあ、どうぞ」
手渡されると、思わず両手でぎゅっと掴む。ふわわんと柔らかな感触に、上気した顔を押し付けてチェルシーは小さく呟いた。
「好きですよ、こういうの」
こういう可愛いのが好きなのって――子供だから?
でも、やっぱり可愛いって思ってしまう。
アセレアには、こういう可愛いものが好きな子供に見えてるんだろうか。
色んな考えがぐるぐる回って顔を上げられない。
すると、ぬいぐるみに顔を埋めた後頭部を、彼の手が優しく撫でてきて。
驚いて顔を起こすと、そこには素敵な彼の微笑があった。
「お好きなら良かったです」
「うう……」
頭まで撫でられてますます子供扱いっ!
ちょっぴり切ない――、でもそれも嫌いじゃないチェルシーは、精一杯の笑顔で彼にありがとうを返したのだった。