■リヴァイアサン大祭『渡せないプレゼント 葛藤編』
どうしよう。少女は困っていた。
大切な人を誘ってのリヴァイアサン大祭の夜。あちこち見て回って楽しんだはいいが、あまりに楽しくてタイミングを逸してしまった。
エクゼクティブの背に揺れるふわふわの黒髪の陰には徹夜で仕上げた手編みのマフラーが綺麗にラッピングされて隠されており、それをまだ渡せずにいることが少女を悩ませていたのだ。
もうとっくに夜になってしまった。
(「どうしよう、せっかく作ったのに……!」)
彼女の大切な人――シドは普段からすると珍しい雪景色に上機嫌で、少女の心の葛藤など気付いていないふうで。
だからエクゼクティブは、こういう雰囲気のいい『いかにも』なイベントが初めてなのも手伝って大変困っていたのだ。
どうしたらいいのか、わからない。
いつ渡そうか。
(「あっ! あの大きな木の前に来たら今度こそ!」)
二人の歩いていく先に不思議な光がたくさん灯った大きな木が佇んでいる。
その木は、ルビーのような赤や月光のような金色や、夜空を溶かしたような藍色、飴玉のような乳白色などの輝きで着飾って、きらきらと夜を明るく照らしていた。
あたかも、今宵を過ごす者達を見守るかのように。
それは妖精の奇跡とも謳われる今宵限りの光。
そこを通りがかるタイミングで、と少女は心に決めた。
隣を歩くシドの袖をそっと摘まんで。
小さな唇を開いて。
大きく息を吸って。
「あ、あのね!」
広場の一角で声を掛けられ、ふと立ち止まりそちらを振り向く。
好意を寄せている少女の、自分を見上げてくる紅い瞳は真っ直ぐで、思わず「ん?」と先を促した。
見詰め返す金色の双眸が少女を映す。
「シド、どうか、ボクからのプレゼント、受け取ってほしいッス!」
ずい、と差し出されたプレゼント。
「ありがとう」
シドはこれまた自然な流れでそれを受け取ると、はっとポケットから小さな包みを取り出す。
「俺も渡そうと思ってたんだ!」
と、あっさりとエクゼクティブにそれを握らせた。
空気読まずに、と評されるかもしれない。
けれど、プレゼントにこめられた想いは少女に伝わることだろう。
シドからの包みの中には、エクゼクティブの瞳の色と同じ、小さな赤い石のはまった指輪が入っていた。
エルフ達がパートナーとの絆を確かめ合う一夜、それはふたりにとっても忘れられない日となった。