■クロノス大祭『時 空 占 有』
「はい、シュルスくん捕まえたー♪」金色の砂と粉雪が舞う、ラッドシティの街の一角。不意にシュルスの両手を掴んだメイは、にっこにこの笑顔を浮かべて彼を見上げた。
今日だからこそ、したい事があるのだと、祭りで賑わう街角から少し離れて。人通りが途絶えて静寂に包まれた道を歩いていたメイは、いきなりそう楽しそうに、嬉しそうに、シュルスの手を握ってみせたのだ。
「今度はいきなりなんだ?」
怪訝そうな顔のシュルスだが、その様子がまたメイにはたまらなくって。頭にくっつけた星霊クロノスのおみみを揺らしながら、うん、と一つ頷き返す。
「シュルスくんの今この瞬間を、あたしが確保」
「……そういうことか」
やれやれ、と言わんばかりにシュルスは口元へ笑みを浮かべる。そんな彼の声は今日も落ち着いていて、他には誰もいないこの場所で、よく響く。
その笑みを、その声を、言葉を。シュルスのことを、今はメイが一人占めだ。そのことを噛み締めながら、ぎゅぎゅっと握ったシュルスの手へ視線を落とす。
――ほんとは、アリルとコリンを呼んで、封印しちゃいたいくらいなんだけど。
くすくすと笑みに乗せながら、クロノスに扮したメイは街並みの方へ視線をやる。
きらきら、きらきら。
舞い降りる向こうに時計塔が見える。
でも今日は決して、あの下で告白なんてしたりはしないのだ。そうメイは心に決めている。だって、時間だなんていう、見えない単位に縛られたくなんてないから。
「何分経ったとか、考えるのやだもん」
「何分『も』一緒にいられた、という考え方もあるだろう」
頬を膨らませたメイの様子に、シュルスは逆側の発想をしてみせる。過ごした時間を数えることは、決して嫌なことばかりじゃない。
積み重ねられた時間は日々に刻まれ、やがて歳月を育んでいく。
「……そっか」
メイは見上げた先のシュルスを見つめ、目を細める。
「やっぱり私、シュルスくんと一緒にいるの、好き」
こうしている瞬間が好き。雰囲気が好き。『今』のすべてが、何もかもが全部好き。その想いが無意識のうちに、メイの頬を綻ばせる。
「シュルスくんといるこの瞬間は、私にとって、大好きな時間……です」
それを伝えるのは、なんだか妙に緊張して、つい口調がこわばってしまったけれど……。
「俺も嫌いじゃないな」
「嫌いじゃないだけ?」
少しだけ口を尖らせたメイの頭に、物言わずシュルスの手が軽く触れて離れる。まるで額を小突くかのような、軽くぽんと撫でていくかのような、そんな優しい感触で……メイは照れくさそうに、恥ずかしそうに、でも、幸せそうに笑った。