ステータス画面

2人でクロノス大祭

霞奏・アルトネーヴェ
誓約者・シャルヴィント

■クロノス大祭『時と時の間で、』

 長い眠りから覚めたばかりの遺跡は、血流によく似たその歯車をぐるぐると回し、あちこちから金属質の音を立てている。時はクロノス大祭、年に一度の祭日に開くこの迷宮には、多くのエンドブレイカーたちが、己の知恵と技術と、心から信じられる仲間とを頼りに、足音も高く踏破へと急いでいた。
 シャルヴィントとアルトネーヴェの二人も、その使命を胸に、遺跡を進んでいる。先行する兄シャルヴィントの背を、弟アルトネーヴェは目印として走り続けてはいたが、基礎となる体力の違いは歴然で、兄が異状を感じて振り向いた時、弟は足をもつれさせ転ぶ一瞬前であった。
「おい!」
 兄の活に気を取り戻したのか、すんでの所で弟は踏みとどまる。だが、疲労の色濃く残る体に覇気は無く、ぜえぜえと喉奥を鳴らす弟に、兄はきっぱりと言った。
「アルト、休憩しよう。無理をするな」
 弟は中腰で、上体を深呼吸に揺らしつつも、気丈に言い返す。
「別に、疲れてない……! 先に行っててよ、兄さん!」
「いいから座れ、アルト!」
 と、強引に頭を押すシャルヴィントの前に、アルトネーヴェはしかたなく腰を下ろす。その直後、過労に苦しむふくらはぎが言うことを聞かなくなり、アルトネーヴェは表情をゆがめた。
「くそ、こんなんじゃ……!」
「焦るな。そんなことでは、届くゴールにもたどり着けん。今は休め……それが最善だ」
「……ふん」
 渋々といった表情で納得する弟の背を、支えるように、兄が背中合わせで座り込む。その意図に気づいた弟は、内心の反抗から背中を押し返すが、兄は涼しい顔で力を受け止め続けた。

「息は整ったな。心拍が正常に戻ってきたら、直に出るぞ」
「言われなくても、自分の体調管理ぐらい自分でできる」
 これだけ言い返せるならもう大丈夫か、と思い、シャルヴィントは立ち上がる動きの中で、ふと空を見上げた。踵を床に押し付けたままで、視線が空に吸い込まれていく。
「……空、綺麗だな」
「え?」
 シャルヴィントの意外な言葉に、アルトネーヴェも同じく空を見上げた。
「本当だ……。こうして、止まって見上げると、また違って見えるな」
 溜息の先に、色鮮やかなクロノス大祭の空があった。
 黄金の砂と白い雪とが、冷えた空気をはらはらと舞う。輝きの粒子は、熱を持つ探求者へのなぐさめにと、風の力を借りてその優しい手を伸ばしては、吐息とともに消えていった。
 触れると溶け出してしまうそのはかなさに、しかし兄は微笑んで、その光景を記憶した。
「こんな日に、お前と一緒に居れて……よかったよ」
 兄はささやく。嬉しいのだ。確かに手の届く場所に大切な人がいて、同じ景色に心を震わせていることが。
 その親愛を受け止めて、弟は、空気を越える言葉としては返答をしない。
「……いつもありがとう。兄さん」
 その雪解けよりも小さな声は、合わせた背中から、魂の震えとして伝わっていた。
イラストレーター名:ヒワタリ