■クロノス大祭『金と銀の世界で』
並ぶ屋台と、行きかう人々。クロノス大祭の喧騒が、二人の美人を取り巻いている。「さて……よろしければ、一緒にお祭りを見て回りましょう♪」
ヤトは、すっ……と、エルフの美しき少女へと手を伸ばした。ヤトの長い黒髪と金色の瞳、整った顔立ちは、誰もが目を引く美しさ。そのため、いつも女性と間違われる。
「はい、喜んで」
そんなヤトの手に、ウェンディ……エルフの騎士にして可憐なる少女もまた、手を重ねる。誰かがこの様子を見たら、女性が二人で祭りに赴くところ……と思う事だろう。
「沢山見て回りましょう、ヤトさん!」
ウェンディの言葉に、ヤトはうなずいた。
いくつの屋台を見て回ったか。
数えきれないほどの店を回った後、二人は巨大時計を見物する事に。
十を過ぎたあとは、ヤトは数えていなかった。甘い香りが漂うお菓子の屋台では、いくつのお菓子や食べ物を口にしたことか。
「ねえ、これ……似合うんじゃない?」
「……ちょっと、大きすぎません?」
「そんなことないわ。似合ってるわよ」
立ち止った服飾と装飾品の屋台にて。ヤトはブローチの一つを、ウェンディの胸元へと付けていた。
「じゃあ、私も」
ウェンディもまたお返しにと、ヤトの胸元にブローチを付ける。
「どうかしら?」
「うんっ、ヤトさんにぴったりですよ。じゃ、次は……」
しばらくの間、互いを飾り立て……。
店から離れる時。二人の胸元には、お互いが選んだブローチが飾られていた。
「……あっ、ヤトさん。見てください!」
ウェンディが、不意に空を指し示した。
日が落ち……灯りが燈る時間。優しい灯りに照らし出された夜の町は、昼とは異なる顔を見せていた。どこか別の世界の、見知らぬ街に迷い込んだかのよう。
そんな中で、ウェンディが指差した空から……。
白く、小さな星の輝きが、優しく降ってきた。
いや、星ではない……。夜空の金の砂に混じり、振り始めるそれ。
止んでいた雪が、また降り始めたのだ。
「……綺麗ね」
自然にそんな言葉が、ヤトの口から出てきた。
「はい、とっても……」
ウェンディも、うなずく。
白い……いや、白銀の雪と、夜空の金色の砂。それは、クロノス大祭の時に見せた、大空の宝石細工。
白い息を吐きつつ、二人はそれに目を奪われていた。
「今日は、楽しんでもらえたかしら?」
「はい! ヤトさんはどうでしたか?」
「もちろん、楽しかったわ!」
そろそろ帰る時間かなと、ヤトは問いかけた。もう少し、ウェンディとこの時間を過ごしたいと思うけれど……。
「……あら、ワルツ?」
ウェンディは、広場から流れてきた音楽に耳を奪われた。ヤトの耳にも、それは響いてくる。
「……まだ、終りじゃあないみたいね。もう少し、楽しんでいきましょうか?」
「はい! 行きましょう!」
祭りは、まだ終わらない。ステップを踏むようにして、二人は更なる祭りの空間へと駆け出して行った。