■クロノス大祭『AlL IN ThE GoldeN KhronoS NighT』
ふわふわと休みなく舞い落ちて行く雪の道。白くてやわらか、まるで小さな兎の子供たちみたい。
「わあ」
指先に兎たちを捕まえようと、雪道を駆ける小さな少女。黒いドレスに長いたれウサギの耳みたいな柔らかな耳あて。暖かく身を包むそれをひょこひょこと動かしながら、たどたどしい足取りで落ちてくる雪へと手をのばす。
「あっ」
ぺたん。
靴がつるりとすべって少女の体が、地面に積もる雪の上に倒れ伏す。
慌てて後ろから、黒いシルクハットを被った青年が追いついてきて、起き上がるのを手伝ってくれた。
「シャーリィ」
「アリス、何回転べば気が済むのかな?」
少しだけ苦笑交じりに微笑み彼が――父が問いかける。
「5回目……だよ」
立ち上がり、体についた雪をぺたぺたはらいながら少女が返すと、頬の雪を指で拭いつつ、父は目を細めた。
「7回だアリス、誠に残念ながら」
少し赤くなった娘の額に気づき、シャーリィはそこを撫でてくれた。ちょっぴりぶつけたおでこは痛かったが、アーデルハイドは困ったような表情を一瞬見せると、すぐに彼の側から離れ、道の先を急いでいく。
「時計塔、行くの」
「そうだね」
優しく父が見守るその少し先を、幼い娘はゆっくりゆっくり、とても楽しそうに進んでいく。
白兎の如き雪が降り積もり続けるその先には――。
金砂を光輝かせながら、街の中央にそびえたつ美しい時計塔。近づいて足元から見上げれば、その美しさはまた格段で。思わず見とれて立ち止まる娘の背に、父は優しく手を差し伸べた。
最上階までのぼった二人を待っていたのは、素敵な素敵なお茶パーティー。
窓の外を眺められる特等席へと招かれたアーデルハイドとシャポリエの二人の側には、猫のような姿をしたチェシャ子犬と、赤い服を着た黒いバロック兎も寄り添うようにやってきた。
特等席の窓から見えるのは、金の砂と、白い雪が街に降ってゆく他にはない最高の景色。
「きれいだね、シャーリィ」
目を奪われている少女に、シャポリエはそっと呼びかける。
「でもなァ、アリス。そこだと冷えるだろ?」
おいで。父の手が手招きしたのは、彼の暖かな膝の上。少女はそこにちょこんと腰かける。すると暖かな手が彼女の体を優しく支えてくれた。
暖かで幸せな最高の特等席。お菓子もたくさん並び、紅茶もすぐ運ばれてきた。
紅茶のカップを彼女に渡して、自身も右手にカップをとったシャポリエは、アーデルハイドの柔らかな髪をそっと撫でる。愛しさと優しさのこもった愛撫だ。
その心地よさに娘は少しだけ目を伏せ、続けて、父と慕う青年をじっと見上げた。
「さあ準備は、ばんたん! だよ」
「ん?」
「今日はシャーリィのとっておきのお話、聞きたいな」
「とっておきか……」
微笑み、青年はゆっくり頷く。彼女が望むならいくらだって話してあげよう。
ただし長すぎる話はよくないだろう。まだ外は寒いから。彼女の体が冷えてしまっては困るからね。