■クロノス大祭『すれ違う想い〜不器用な愛情〜』
「ああ、楽しかった♪ ね、シルフィア?」「ええ……」
すっかり夜の更けたラッドシティの一角にある、宿の部屋へ戻ってきたフィーアは、ご機嫌な様子でシルフィアを振り返った。
年に一度、金色の砂が舞う中、時計塔から現れた人形達が音楽を奏でながら舞い踊るクロノス大祭。街のあちらこちらで人々も大騒ぎし、祭りの夜はあっという間に過ぎていく。
フィーア達もまた、そんなクロノス大祭を満喫してきたところだった。予約していた店でディナーを楽しみ、賑やかに盛り上がる街を散策した二人は、もうそろそろ日付が変わろうかという頃合になってようやく、この部屋へ入った。
シルフィアはいつもと変わらず淡々とした様子だったが、さっきレストランでたっぷりと飲んだフィーアは、ほろ酔い気味な事もあってか、いつにも増して陽気な様子でシルフィアへと飛びつく。
「ふふふ、でしょ、でしょう? さっきのパン屋さんなんて、見物だったわよね」
嬉しそうに笑いながら抱きついているフィールを、導くかのように支えてシルフィアは奥へ向かう。ベッドにでも座らせて……と、そちらへ足を運べば。
「……シルフィア」
どさりと、ベッドへ倒れこむ音。言葉と共にシルフィアを押し倒したフィーアは、至近から彼女を見下ろしながら微笑む。
こんな時でもシルフィアの表情に変化は見られない。
でもそれが、だからこそ彼女らしい。
フィーアは更に彼女との距離を近付けると、その唇へ口付けた。微かに離れたら、今度はもっと、もっと深く。手繰り寄せ合うようにして――交わりあっていく。
シーツに包まって身を寄せ合いながら、先に笑ったのは一体どちらだっただろう。
重ね合った手のひらは、しっかりと指を絡めあって、離れない――離さない。
「メリークロノス、シルフィア♪ 大好きよ……これからも、ずうっと、よろしくね」
フィーアは耳元で囁くと、彼女よりも小柄なシルフィアの体を抱き寄せる。
こうしていると、まるでフィーアの方が年上かのように錯覚してしまうのは、この体格の差のせいなのか。それとも、頑なに他者を拒み続けたシルフィアがいるからなのか。あるいは、単に人生経験の差なのか……。
いずれにせよ、そんなものは些細なこと。
今、二人は確かに寄り添って、繋がり合っている――。普段は、すれ違いの多い二人だけれど……ただそれだけで、十分だった。