■クロノス大祭『初めて、男の人を好きになりました。「好きです!」』
無意識のうちに、彼を目で追うようになったのは、一体いつだっただろう。それを自覚したシンシアは、ますます彼のことが好きになっていった。
募る想いを秘め続けることなんて、できなくて。
――ちゃんと、きちんと、告白しよう。
そう決めたのは、クロノス大祭を迎える2ヶ月ほど前のことだった。
降り注ぐ白い雪と金の砂。その向こうでカチリと時計塔の針が動いた。
その途端、どこからともなく現れた楽団人形達が軽やかに、ロマンティックなメロディを奏でて。一緒に躍り出た恋人達の人形が、それに合わせてワルツを踊る。
「見事なもんだねー」
「ええ、素敵です」
タリスカーの言葉に、シンシアは頷いた。ちらりと視線を隣に向ける。人形達を見上げる、タリスカーの穏やかな横顔。
――とても、素敵な人。
まだまだ子供のシンシアが、相手にして貰えるかなんてわからない。そんなの、到底無理じゃないかって、不安にも思うけれど……でも。
タリスカーはシンシアの誘いに応じて、こうして一緒に来てくれた。
そのことが、もうそれだけで。シンシアはすごく嬉しい。
「えっと、今日はお付合い下さって、ありがとうございました。タリスカーさんとご一緒できて、とっても嬉しいです」
「いや、俺の方こそ。素敵な場所に誘ってくれてありがとうな?」
「いえ、もう全然っ。あ、き、今日はですね、いつもお世話になってますから、そのお礼をしたくて。まだ下手なんですけど自分で編んでみたんです。セーターと帽子とマフラーを!」
タリスカーの言葉に、ふわふわ飛び上がってしまいそうなくらい嬉しくなったシンシアは、わたわたしながら用意しておいたプレゼントを取り出す。それから、とりとめもなく早口で、あれこれまくしたてようとして。
(「って、そうじゃなくて! 言うの、私!」)
ハッと我に返ったシンシアは、すーはー深呼吸をして。そんなシンシアを見ながら怪訝そうにしているタリスカーを再び見つめた。
「あ、あのっ、タリスカーさん!」
「ん? 何……?」
意を決して口を開いたシンシアは、決心が鈍らないうちに想いの丈を、一気に解き放った。
「大好きです! 愛してます! いつか……こんな何の取り得もない私ですけど、好きになって下さったら、私とお付き合いして下さい!」
意気込みのあまり、ついつい呼吸が荒くなる。頬を上気させながら、シンシアは、へなりと体から力が抜けていくのを感じた。
(「……い、言っちゃっ……きゃーっ!?」)
我ながら、なんて大それた事を……!
シンシアは緊張と羞恥が入り乱れるあまり、一気に脱力してへなへなと崩れ落ちた。言葉を失っていたタリスカーも、それを見ては黙っていられない。慌ててシンシアの体を掴み、支える。
「大丈夫か!?」
「あ……はい……」
恥ずかしさのあまり、俯くシンシアは知らない。
微かな吐息と共に、今、タリスカーがどんな表情を浮かべているのかを……。