■クロノス大祭『雪見酒』
賑やかに過ぎた大祭の1日も、雪降る夜を迎えようと静けさの衣をまとう。ちらり、ちらりと風に踊る白い結晶をフェイテルが目で追っていくと、隣のワカバに行き着いて。
ふと目が合った瞬間、どちらからともなく相好を崩した。
「こうしてふたりで飲むお酒は格別、ですね♪」
「ええ、本当に……」
ワカバが杯を、静かに唇へと運ぶ。
喉を過ぎて、ぽ、と胸に灯るあたたかさは、杯を交わし宿り始めた心地良い酔いの所為だろうか。
それでも降りしきる雪が、フェイテルの掌の杯へと舞い降りて、音もなく溶けて、消える。縁側の足許から這い上がるような冷気と、首筋を撫でる冬の風は、ふたりの間を無遠慮に通っては忍びやかに体温を奪っていく。
「結構冷えますね。……もう少し、傍に寄ってもいいですか?」
そう問うたフェイテルを、ほんのちょっとだけ驚いたように見上げたワカバの瞳が、
「……ふふ」
全てを理解したみたいに、挑むように、楽しそうに、細められる。
「勿論。……今日は本当に冷えますわね……」
そっと互いに寄り添えば、腕と肩が触れ合って。
「ふふ、温かい……♪」
「温かいついでに兄さん、もう一杯如何かしら?」
「ええ、戴きます……♪」
胸に灯り続けるあたたかさに任せ、いつもよりもぐっと近い距離で笑みを交わし。柔らかな雪を頬に感じて、そしてどこかから聞こえてくる鐘の音に耳を澄ませ、瞼を伏せる。
たおやかなワカバのそんな横顔を盗み見て、預けられ伝わるぬくもりにフェイテルも目を閉じ、思い描くはまだ見ぬこの先のふたりの姿。
また次の年の今頃も、こうしてふたりで過ごせたなら。
呟くように告げたその言葉に返るのは、さらり、軽い音。それはきっと、彼女の長い漆黒の髪が、肯いた拍子に着物の肩を滑る音。
夜の帳(とばり)が、ふたりを包む。
「──ワカバちゃん」
「ん……?」
瞼を上げて彼女を視界に取り戻し、白い息に乗せて、囁いた。
「……大好き、ですよ」
彼女の白い頬に昇る朱の色も、お酒の所為だろうか。
「……私もですわ、兄さん」
隠すように、甘えるように、その頬がフェイテルの肩に預けられる。
いつもより大胆なのもやっぱりきっと、お酒の所為。
あなたと共に雪を眺めながら聖なる夜に交わした杯に、酔わないはずが、ないのだから。