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2人でクロノス大祭

月光桜・ユキヤ
雪時雨・ゼロ

■クロノス大祭『 君を飾る桜 』

 石畳の上をしずしずと、雪駄と下駄の足音が進んでいく。異国の装束に身を包んだ男女が、足並みを揃えてクロノス大祭を行く音だ。二人は急ぐことはなく、伴侶の速度を外れないように、散る白雪と金砂の中を歩んでいた。
「大きな祭のようだな、ゼロ」
「そうですね。ユキヤさん、お祭というものは、皆あれ程までに大きいものなのですか?」
「いや、これは格別に大きいものだろう。故郷にいた頃でも、ここまで盛大な祭は見たことがない」
「アマツカグラよりも、ですか……。世界は広いのですね」
 ゼロが見上げる空は、窓枠も天井もなく、あるがままに広がっている。かつては許されなかったその途方もない巨大さへ、物怖じすることなく視線を向けるゼロに、ユキヤは腕を組みながら言った。
「ああ。……楽しいか、ゼロ」
「それはもう。次はどちらに連れて行ってくださるのか、楽しみで仕方ありません」
「む……、俺もこの国には少々不案内だ。先に屋台村があるのは知っているが――」
「では、そちらへ参りましょう。ご一緒してくださいませ」
 ユキヤの組んだ腕に、ゼロのたおやかな手が潜り込んでくる。肘を絡めとられ、より近くなる距離をユキヤは拒まず、ゼロだけに判る笑みだけを返答として、物をこそ思いつつ、二人で進んでいった。

 露天に並ぶ品々はどれも物珍しく、小物に玩具、酒食に衣装、用途がまるで見当のつかない道具など、好奇心をおおいに刺激する出来事で溢れている。二人は目を引く物を片っ端から手に取り、天真爛漫な子供の様に、一時の祭を楽しんでいた。
 通りも中程を過ぎた頃、ユキヤはふと、見慣れた意匠を扱う装身具店を見つけた。繊細な蝶や色鮮やかな花といった、どことなく故郷を思わせる品々の中で、ユキヤは一本のかんざしに目を留める。遠目にも判るそれは、特別な、懐かしい花に飾られた品だ。あれをこそ、とユキヤは心に決め、後ろでドールと見つめ合っていたゼロの手を引いた。
「ゼロ、こっちへ来てくれ」
「ユキヤさん? ……わ、綺麗なかんざしで一杯ですね」
 店の前に連れられたゼロは、色とりどりに並ぶかんざしに目を輝かせた。その中からユキヤが桜の花で飾られたものを選び、ゼロの結い髪に通すと、彼女は早速店頭の鏡に顔を映して、そのかんざしの造形を確認した。
 鏡越しにゼロとユキヤの笑顔が鉢合わせする。
「あ……。ユキヤさん、このお花は……!」
「店主殿! こちらの品を頂きたい。――いや、包みは結構」
 花の種類に気づき、戸惑うような視線を向けるゼロをよそに、ユキヤは素早く勘定を済ませ、手を引いて店からさっさと離れていく。その足取りにゼロはユキヤの心の内を察し、しかし訊いておくべき事は訊いておこうと、横に追いついて問う。
「ユキヤさん……いいんですか?」
「ゼロに似合うと思ったから。俺の桜、大事にしてな」
 桜は、ユキヤの姓が抱く花。雑踏の中、二人は離れがたく、祭の残る街へと歩いていった。
イラストレーター名:黒無