■クロノス大祭『お似合いですよ、お嬢さん?』
年一度の祭りの日。ユリックは茶飲み仲間のカルディナーレに誘われ、夜の市場へ買い物へ出掛けていた。
(「なんだか、普段よりもロッソが男らしいね」)
カルディナーレの後に続く彼女は、久々の女性扱いということもあり、少し照れてしまっている。
(「女性をエスコートするのも、何だか久しぶり」)
一方カルディナーレの方も、男として振舞うのは滅多にないことだ。
せっかくの機会なので、いつもの『ふざけた口調』を封印して、ここ一番にビシッと決めてやろうと決意する。
「――おっ」
雪が降り続いていながらも活気に溢れた街角で、カルディナーレが一軒の宝石屋に目を止める。
彼が気になったのは、ウィンドウに飾られた一際美しく輝く髪飾り。
ルビーの赤薔薇とオパールの白百合をあしらった、繊細な細工の逸品だ。
(「お洒落な彼には、きっと似合うだろうな」)
カルディナーレに連れられ入った店内で、そんな風に思いつつユリックはカルディナーレが髪飾りを買い求めるのを眺めている。
綺麗だとは思うものの、男の格好の自分では相応しくないと、諦めてしまっているユリックだった。
「――どうかしたのかい?」
店を出た後、カルディナーレがするりと正面に回ってくる。
お互いの髪の先が触れ合うほどの距離。
きょとんとして訊ねるユリックの髪を、「ちょっと失礼」と解いて、購入したばかりの髪飾りを施す。
「……えっ、?」
「お似合いですよ、お嬢さん」
驚き瞬きするユリックにかけられる、いつもよりトーンの低い男らしい声。
戸惑うままの麗しき乙女の手を取り、カルディナーレはそっと口付けする。
「……っ」
にっこりと笑みを浮かべるカルディナーレに対し、慣れないことをされ、言葉に詰まるユリック。
いつものお互いの役どころとはまるで正反対。
けれども、本来はこれが正しくて……。
「ありがとう、カルディナーレ」
なんとか『長くて呼び難い名前』の友人に微笑みを返したユリックの頬は、思わぬロマンチックな出来事に、頬を真っ赤に染めていたのだった。