■クロノス大祭『探索後、休息のひと時』
シンと静まり返った公園。降り積もった金砂と雪が、街の明かりとともに辺りを淡く照らしだす。そんな街景色の一角。静かな空間にあるベンチには、金砂と雪のふわふわなクッションが敷かれていて。けれど、これでは座る事ができず。ナバールは仕方なく、綺麗に輝く柔らかなそれをパラパラと地へと舞い散らした。そして、冷えきっているその上にためらいもせず寝転ぶ。
隣に立ち彼の行動をジッとみていたパティは、ちゃんと雪が払われ、ナバールが空けてくれていたスペースに、ゆっくりと腰掛ける。
ベンチに触れた部分からジンと伝わってくる冷たい感覚。
「そんな所で寝転がってると風邪ひいちゃうよ」
自分の脚とナバールを見比べるようにして、彼女は心配して口を開いた。すると、ナバールは閉じていた瞳を開き、顔はそのままに視線をパティへと送る。
「じゃー折角だから、約束のひざ枕を今ここでしてもらおーかな」
ニヤリと笑い、答えを聞くよりも先にパティの太ももに頭を乗せる。一方のパティは、ドキリと心臓を高鳴らせて慌てはしたものの、動くことなく瞳を閉じているだけの彼を見て落ち着いたのか。
「ナバールさんは仕方ないなあ……」
確かに約束はしたからと、少し諦め的な雰囲気でナバールの癖のある長い黒髪をクルクルといじり始めた。
「楽しかったね、クロノス大祭」
「そうだね」
ほんのりと微笑みながら言うパティに、ナバールが小さな声で答える。そんなたわいもない会話をしている中で、パティは不意に空を見上げた。
「……まだ降ってるね」
星の瞬く夜空から、金と白の宝石が舞い降りて。降り積もったそれらはキラキラと輝き、景色を一段と美しくさせる。彼女の声で瞳に世界を映したナバールは、その輝きに眩しさを感じながらもしばらく天を眺め、その後、視界の片隅に映るパティへと焦点を移した。
「ん?」
下を向いてナバールと視線を絡めたパティは、ひざ枕に慣れて余裕が出てきているらしく柔らかく微笑む。それを見たナバールは、少し彼女をいじめようとでも思ったらしい。
「ひざ枕にはこういうものもあるんだぜ!」
再びニヤリと笑むと、寝返りをするようにしてパティの方に顔を向け、彼女の太もものかなり上の方でうつ伏せになった。
「これが『裏』ひざ枕だー!」
「ちょっ……息を吹き込まないでよぅ!?」
冷えきった身体に感じるナバールの息遣いと温かさ。予想外の彼の行動に、ひざ枕をさせられた時よりも数段大きくパティの心臓は高鳴った。もふもふされてる部分はくすぐったくて堪らない。
パニック状態になった彼女はナバールを蹴落としたいと思ったけれど、太ももでもふもふ以上の事をしてくるわけでもない彼に、さすがにそれは出来ず。残念ながら、あうあうと耐える事しか思いつかなかった。
行動した者勝ちだ、という彼の声が聞こえてくる気がする。
「ナバールさん、ずるい!」
パティの必死の叫びが、綺麗な雪景色に響き渡った――。