■クロノス大祭『目に見えぬ、確かな形の絆を』
真っ白な雪と金色の粉が、街の明かりを反射しながら降り注ぐ。幻想的な光景だが、ネロはその光景に心を奪われることなく、ハイドの腕を引き明るい街から人気のない廃墟へと移動していった。
やがて目当ての場所にたどり着き、ここまで黙ってついてきてくれたハイドの腕をそっと離した。
(「ここは出会った場所に似てる。だからきっと、伝えられるはずだ」)
早足になっていたのか、緊張しているのか。ネロは少し上がっている息を整え、意を決して振り返る。
今までずっと言えなかった思いを、今日こそ伝えるために。
迷うことなんてない。
「ガーディアンのハイドに、スカードのオレが言うのはおかしいかも知れないけれど」
昔、命を助けてくれたあんたを探してたんだ。
ラッドシティで偶然再会したことは、神様がオレにくれたチャンスだって思った。
(「だから。どうか、オレの想いが届きますように」)
勢いで腕を掴んで、ずっと上の銀の瞳と視線を合わせる。
「オレはあんたを護りたいんだ。命を救ってくれた、あんたを」
だから、オレのガーディアンになってくれ。
いつもそばに居て、そして護らせてくれ。
何よりも。
――微笑んでいたあの頃の笑顔を、オレに取り戻させてくれ。
真剣な目で、真正面から見上げてくる金の瞳を、ハイドは苦い思いで見つめる。
彼が何を言いたいのか、うすうす気づいていた。知っていた。だけど、『君の為にだ』と誤魔化してきた。
それが本当は違っていることも、知っていた。
そう、単に自分が臆病なだけだと。
驚いた表情をしているだろう。事実、ハイドは驚いていた。
(「ねぇ。それは気の迷いなんかじゃないの」)
本当なの? と心の内で問いかけてみるも、ひたすらまっすぐ見上げてくる瞳は、気の迷いなんかじゃないと彼に教えてくる。
ネロは心の底から、そう思っているんだと。
ガーディアンになってほしいと。この俺に。
強い意志に、少しだけ口ごもる。
(「それが、本当なら」)
「俺ね、マスターだと思ってた人、実は実はスカードじゃなかったんだよね」
(「君に、一つだけ教えるよ」)
ハイドの唐突な言葉に、今度は逆にネロが驚いた。
真意を測り損ねて首をかしげ、口を開こうとする彼より先に、ハイドは続きを口にする。
「じゃあ、俺を目覚めさせたのは誰だと思う?」
少し考え、思い至ったのか目を見開くネロに、ハイドは頷く。
――昔々に会った、君自身なんだよ。