■クロノス大祭『いつまでも憧れの女性 』
クロノス大祭当日。金色の砂と純白の雪が、星空から舞い降りてくる。「うーん、流石に冷えるねー」
「そうですね……」
僕、ジョイは久しぶりに会えた憧れの女性――ガウラさんと街を見て回っていました。ガウラさんの短く切られた赤茶色の髪が、寒い冬の夜風に流れているのであります。
「……でも、やっぱり綺麗ね」
寒さに耐えながら、ガウラさんはクロノス大祭特有の、光があふれ出すかの様な幻想的な風景に見惚れ、笑っています。とても綺麗です。
僕はじっと、その様子を見ていたのですが……ふと、ガウラさんの視線に気が付いたのであります。
「エルフヘイムでは慣れない仕事で色々大変だったでしょ? ジョイ君、今日は思いっきり羽を伸ばさないとだね……あっ、でも奥さんと一緒じゃないのはやっぱり寂しいかな?」
にこっ、とガウラさんは笑ってくれました。けれど、何故か少しだけ、胸が痛んだのであります。
「えっ、いやそんな! 僕はこうしてガウラさんとお祭りを見て回れるだけで、それでもう!!」
「またまたー、上手なんだからー」
僕の言葉を笑って返すガウラさんに、僕も、釣られて笑顔を返しました。けれど、決して嘘では無いのであります。だから、その心境は複雑で……。
エルフヘイム都市警備隊で働いていた僕は、職場でとある女性と出会った。そして、互いに年齢的な焦りもあって……その勢いのままに結婚。ゴールインしてしまった。
もちろん、彼女もすて……素敵でとてもよ……良い奥さんなのでありますが。ま、まあ、顔はどことなくドンチャッカ総帥に似ているけれど。おまけに少し、怖いけれど。
「ガウラさん……」
気が付けば僕は、無意識のうちにガウラさんの名前を呟いていた。
「どうしたの? ジョイ君」
「!? あ、いや……っ」
実は、彼女と結婚する前から、ずっと……ずっと密かに、ガウラさんに憧れていたんです。でも、僕なんかにはとても手が届かない、そんな方だと最初から諦めていました。告白する勇気なんて、出なかったのであります。
「すみません、大した話題ではないのであります……本当に、綺麗な景色ですね」
「うん、そうだね……」
そんなガウラさんに、僕は結婚を報告した時、一緒に打ち明けたんです。ずっと、あなたの事が好きでした、憧れていました、と……。
「…………」
あの時、僕の話を聞いて、ガウラさんは――いや、もう良いんだ。僕には、今のままで十分だから。
「この景色、あたしはもうしばらく見ていたいかな……ジョイ君、先に帰る?」
「い、いえ! お供します!!」
――――僕は昔も今も、こうして憧れの人の傍に居られる……それだけで幸せ、そう思うのであります。