■クロノス大祭『リア充になりました』
リーオは疾走していた。たった今、自分の言葉に答えてくれた人を両腕に抱えて。何故猛ダッシュしているのかといえば、勿論このトマト砲火の中から無傷で生還する為である。「このまま部屋まで逃げましょう!」
ティグリスを軽々とお姫様抱っこしながら駆ける、そんな激しい動きをしているにも関わらずリーオには微塵の疲労も窺えない。それどころか嬉しくて笑顔が止まらないようだった。すっかり張り切っている様子に、ティグリスもつい微笑んでしまう。
(「仕方ないわね。このまま運ばれといたげる」)
飛んでくるトマトを適度にキャッチしつつ、ティグリスは頭上の笑顔を振り仰ぐ。不安定な体勢に支えを求めて、リーオの首にそっと腕を伸ばしてしがみついた。
しがみついたその瞬間、こちらを目掛けてまっすぐ飛んでくるものがある。トマトではない。あれは石だ。
手の中のトマトは捨てる。折り畳んだハルバードを盾にして、咄嗟に石を弾き飛ばした。
頭のすぐ後ろで響いた金属音にリーオが目を丸くするのと同時に、抱きかかえられたティグリスが吠える。
「今石投げたのどいつだこの野郎!!」
「ティグリスさん……!」
ハルバードを今にも展開して暴れ出しそうなティグリスを抱え直しながら、リーオが声をあげる。諌めているのではない。感激しているのだ。
ティグリスさんが俺に抱っこされて、しかもピンチの時にはちゃんと助けてくれる。飛び交うトマトを避ける最中にも、リーオは幸せを噛み締めた。
未だ怒りの収まる様子のないティグリスを幸せいっぱいで宥めている間にも、無事に部屋へと辿り着く。駆け込んで扉を閉めると、戦場の音も今は遠かった。
ようやく落ち着いて、リーオは自分とティグリスの無事を確かめる。驚くべきことに、二人の体にはトマトの欠片も張り付いてはいなかった。
ガーディアンとしての初任務は、どうやら上々の成果のようだ。どちらからともなく顔を見合わせて、吹き出した。