■クロノス大祭『夢の続き』
──貴方の事を真剣に考えてみますから。そう返事をした、秋の終わり。
それから、真摯に考えた。
戸惑いは、やはりなにより大きくて。
そんな気持ちで見たことはないと、そんな気持ちで見ることはできないと、何度も思った。
だけど。
「……姉様……」
呼び出した、雪空の下。
共に降る金色の砂が幻想的で、キクコは自然と、口許に笑みをかたどる。
「お待ちしておりましたわ、スイ」
ぴくりと、ほんの僅かにスイの肩が跳ねる。
あの日から変わった、呼び名。ふわり風に躍るイブニングドレスは、あの日彼女と共に踊ったものだ。
その意味は、きっと彼女にも伝わっただろう。
あの日の続きを、今夜。
「聞いていただけます? ──スイ」
「……は、い」
ずっと待っていただろう、このひと月。
キクコにとっても長かったその間、スイにとってはもっと長く、つらいものだっただろう。
戸惑いは、最後まで付きまとっていた。
だけど。
だけど。
「色々考えましたけれど……。これが、わたくしの、正直な気持ちです」
1番に愛しいと思えるのは、貴方。
貴方が、誰かのものになるのは、耐えられなくて。
ずっと、そう、自分の傍に居て欲しいのは、貴方だと。
そう──気付いた。
恋人と、そう名乗るには、まだ抵抗があるけれど、伴侶、あるいは、生涯のパートナーということであれば、胸を張って、言える。
「愛しています、スイ」
「姉様……!」
感激に震え、涙を浮かべた彼女が、ひしと飛びついてくる。
それを優しく抱き止めて、まっすぐな銀色の髪を撫で、キクコは微笑んだ。
「お待たせしました……」
いいえ、いいえと首を振り、泣き笑いのような顔で見上げてくるスイが愛おしいと、心から思う。失いたくないと思う気持ちに、自らの選択は、間違いではなかったと感じる。
静かに顎をすくって、「目を瞑って」と囁き、促し。
月明かりにふたつ、影が重なって。
「待っていてくれて、ありがとう」
夢は現に溶け出して、ふたりの温度も、溶け合った。