■クロノス大祭『特等席でお茶会を』
お菓子とお茶と、敷布と毛布。シャルティナとルーイの二人は、それぞれにお茶会の準備を、籠とリュックにつめこんで、冬のピクニックを歩いていた。クロノス大祭を祝う白雪と金砂とが、風の中で交差し、踊って、街のそこかしこを美しく彩る。声を張り上げる露店の主にも、永遠を誓う恋人たちにも、もちろんシャルティナとルーイの二人にも、冷たいけれど温かな雪の化粧が施され、吐息を白く染めつけていた。
「はわ、息がまっしろなのです。ルーイさん、冬って不思議ですね〜」
「そうですね。わたしも、よくこうやって遊びますし」
言いながら、何度も手のひらに息を吹きかけるシャルティナを真似て、ルーイも、ほうっとため息をつく。手袋を周回し、風に消えるその色を追いかけると、透いた空気の向こう、少しだけ遠い場所に、小高い丘が見えた。
「あ、シャルティナさん、お茶会はあの丘がいいと思うのですが」
ルーイが指差した先を見上げて、シャルティナも頷いて同意を返す。
「はいです。あの丘からなら、いろんな場所が見えるでしょうし……ひゃっ?」
と、答えたシャルティナのつま先が、雪のこぶに引っかかる。バランスを崩し、後ろ髪が浮くようにつんのめる所を、ルーイの差し出した手が繋ぎとめた。
「危ない所でした。すぐ上り坂になりますから、一緒に歩きましょうか」
「あ、はいです。あのその……、支えてくれて、ありがとうです。えへへ」
横に立ち、手に手を添えてこちらを案ずるルーイに、シャルティナははにかむような素敵な笑顔を返した。
山頂の雪を払い、現れた芝生に敷布を被せれば、そこは即席のお茶会場となる。そして二人くっついて座り、共に一枚の毛布を背中から羽織れば、もう外の寒さは問題ではない。
ルーイが水筒のお茶をカップに注ぐと、吐息よりも濃い湯気がふわふわと昇ってきた。それが消えないうちに、温かいうちにゆっくりと喉を通し、冷えた体に熱をしみこませていく。
「はあ、おいしい……。冬にはやっぱり、温かいものがいいですね」
「ですです。ところでルーイさんは、どんなお菓子を持ってきたですか?」
「いろいろと、好きなものを持ってきました。これなんかどうでしょう」
「わ、ロールケーキ……。これ、わたしもだいすきなのです♪」
甘くて小さな宝物に、目を輝かせるシャルティナ。両の指先に捧げ持って、大切なおとぎ話の本のように、すこしずつ口に含んでいく。
「ルーイさんも、わたしのバスケットからお好きなものをどうぞです」
「ありがとうございます。シャルティナさんも、冷めないうちにお茶をどうぞ」
「それなら、バルカンさんもお呼びして、温かいままにするのを手伝ってもらうのも、いいかもです」
「あはは、それなら、マシュマロを焼いて貰うのもいいでしょうね」
そんな、冗談めいたおしゃべりを続ける二人から、笑顔が絶えることは無い。この砂と雪の風景と共に、この一時はずっと心にあり続けるのだろう。