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2人でクロノス大祭

シュレディンガーの猫・フランティカ
広葉花簪・ローダンセ

■クロノス大祭『この道、最果て行き』

 ふわりと吹いた風が、花びらを巻き上げる。
 日が昇り、落ちていく時間の移り変わりを映すかのように染まった空の下、フランティカとローダンセの姿は花園にあった。吹きつけてきた風が花びらを揺らし、さざなみのように駆け抜けていく。それを追うように花園へ踏み込んだフランティカは、ローダンセを振り返った。
「すごく綺麗ね」
 今の季節にこんな素敵な花園が見られるなんて、と、嬉しそうにフランティカは微笑む。その様子にローダンセもまた自然と笑みがこぼれた。
「いい場所があるって聞いて、フランティカが好きそうだと思ったんだよね。気に入って貰えて良かったよ」
 はらり、はらりと舞うのは粉雪と混ざった金の砂。それに彩られた花園は、まるで夢物語の世界を切り取ったかのような美しさ。郊外だからなのか、他に誰の姿も見えないこの場所を、二人は一緒になって歩く。
 美しいけれど、どこか儚い一面の景色にフランティカは目を細めて。
「……せっかくだから、摘んで帰ろうかしら……」
 この景色をそのまま持ち帰ることは出来ないが、一部を、思い出と一緒に持ち帰ることだけならばできる。フランティカは選りすぐった花を優しく摘んで、両手のなかで束ねていく。そっと、そっと、決して潰してしまわないように。
「あ……っ」
 その時、また風が吹いた。先程よりも、もっと強い強い風。びゅお、っと髪を乱した流れに花びらが攫われ、あまりの強さに足までもがよろめく。
「フランティカ!」
 咄嗟に支えようとするローダンセの腕を掴む。けれど、その時にはもう。
「いた……」
 予期せぬ動きで少しだけひねってしまった足首が痛む。顔をしかめたフランティカに気付いたローダンセは、すぐ事態を悟ると少しだけ身を屈めて――フランティカを抱き上げた。
「ろ、ローダンセ」
「これ以上、痛めたりしたら大変だからね」
 目を丸くするフランティカに笑いかけ、そのまま歩き出すローダンセ。
「ありがとう……」
 そんな彼に、フランティカはそっと、はにかみながら礼を告げて。何気なくふと視線を上に向ければ、空は夜の帳に少しずつ覆われ始めている。
「ああ、そろそろいい時間みたいだね。ここって、夜の景色はもっと綺麗らしいんだ」
 特に――星が。
 きらめく無数の星が浮かぶ姿は、格別なのだと、そう聞いたと説明するローダンセ。二人とも、星空を見ることが好きだから、だからこそこの場所を選んだのだろうと気付き、フランティカは「楽しみね」と満面の笑みをこぼした。

 そうしてまた、風が吹く。
 満天の星空の下、身を寄せ合ってひとときを過ごす、二人を優しく包み込むように。
イラストレーター名:オリヤ