■クロノス大祭『雪の舞う夜に〜二人だけの時間〜』
カツンカツン、カツンカツン……。街を包んだ活気の中で、石畳を鳴らす2つのリズムがあった。
「ちょっと飲みすぎちゃったわね。酔い覚ましがてら、少し歩きましょうか」
「分かったわ」
フィーアとシルフィアの会話はいつもこうだった。
フィーアが楽しげに語り、シルフィアが言葉少なに淡々とそれに応える。
そんなやり取りが、2人にとっては何よりも楽しいのだ。
――今日は年に一度の特別な日。
様々な人々が大切な誰かと過ごす、クロノス大祭。
この2人もまた、そんな1組なのであった。
「う〜ん、美味しかったわね。シルフィアもそう思うでしょう?」
「そうね。悪くなかった」
誘い合わせ、前から目をつけていた小さなレストランで共にディナーを過ごす。
フィーアは勿論、シルフィアも楽しんでいたのだろう。
言葉尻こそそっけないが、その口元が緩んでいることを彼女はしっかり見抜いていた。
そうやって、2人肩を並べ歩いていること、暫く。
カツンカツン、カツン……
不意に、石畳を鳴らしていた音が1つだけになる。
「……フィーア?」
並んでいた距離が数歩分空いて、シルフィアは後ろを振り返る。
そこには、ふと足を止めて、ただ空を見上げるフィーアの姿があった。
気がつけば、あれだけ在った街の喧騒も、ふと止んでいることに気がつく。
そして皆、一様に空を見上げているのだ。
「……?」
シルフィアは怪訝そうに、彼女の隣へと歩み寄り同じく空を見上げた。
そう、空からは相変わらず金色が降り注いで……。
――否。
シルフィアは気がついた。
降り注ぐ金にいつしか混じった白が、ほんの少し火照った頬を優しく冷ましていく事に。
いつの間にか、雪が降っていたのだ。
「綺麗ね……」
そっと。
フィーアがシルフィアの手をとる。
そしてふんわりと包み込むように後ろへまわって、抱き包んだ。
そのままシルフィアの金色で艶やかな髪へと、そっと頬へと摺り寄せるのだ。
「ねぇ……もう少しだけ眺めていきましょう?」
それは今日一番の甘い囁きだった。
小さく身悶えるようにして、身じろぐシルフィア。
それでもフィーアの抱擁がゆるむ事は無い。
恥ずかしがっているだけなのだと、分かっているから。
「……」
無言の肯定。シルフィアは身じろぐことをやめて、素直になった。
――雪の魔法。
沈黙の中でただ、彼女達はその身の温かさを互いに感じあっていた。