■クロノス大祭『愛しき人へ、想いを込めて』
「な、何ですか? 何なのですか〜?」「良いから良いから!!」
クロノス大祭の夜。カルマに手を引かれ、シエルは夜道を走っていた。目的地を知らされていない彼女は、不思議そうに首を傾げている。
「はい、着いたぞ!!」
「……仕立、屋?」
辿り着いた場所は、街の仕立屋。シエルの予想とは180度異なる場所だ。きょとん、と目を丸くする彼女の手を再び引き、カルマは店の中へと入っていった。すぐさま、店員がやって来る。
「んじゃ、頼む」
「かしこまりました」
「え? え? え? えええっ!?」
現れた店員に連れて行かれながら、シエルはかなり訝しげな表情をしていた――訝しいも何も、彼女は全く事情を知らないのだ。それも無理はないだろう。
「さて、と……俺も着替えるかな」
別室に移動し、カルマは白いスーツに身を包み、置いてあった赤い花束を手にした。どちらも、事前に彼が密かに用意したものだ。チラチラ、と時計を眺める。
「お待たせしました」
店員に連れられ、やって来たシエルは純白の上品なドレスに身を包んでいた。思わず、彼女に目を奪われてしまう――カルマはこの日の為に、シエルのドレスを特注で頼んでいたのだ。
「……想像以上だな。すげぇ、似合ってる」
そう呟き、カルマが歩み寄ると、シエルは照れたような、困ったような顔でもじもじとしていた。
「こういうサプライズは何と言うか……リアクションに困りますね」
「嫌だった?」
カルマの問いに、シエルは首を大きく横に振った。
「でも、嬉しいです。すごく。とっても!」
どうやら生まれて初めての出来事に、どう感情に表したらいいか迷っているようだった。嫌がられてしまったわけではない。それに気付き、カルマは密かに安堵した。
「今日は、俺の気持ちをシエルに伝えたいんだ」
カルマはシエルの目を正面に見据え、花束を差出した。流石に、顔が赤くなってしまう。
「シエル、好きだっ! 俺と付き合ってほしい!」
そして彼が紡いだのは、混じり気のない直球の告白――。
「え? あの、えっと……っ」
思わぬ事態に、数秒間、シエルは停止してしまったが……やがて、自然と緊張していた口元をちょっぴり綻ばせた。
「カルマくんがいいなら、喜んでっ」
「シエル……!」
そして、にっこりと笑った彼女の笑顔は、カルマが見てきたどの笑顔よりも、ずっと美しく、愛おしいものだった。
「ありがとうございました!」
互いに上気した頬のまま、2人は笑顔の店員に見送られ、店を出た。
「それじゃ、行こうぜ!」
カルマはシエルの肩を抱き寄せ、空いた手を繋ぐ。その様子はまるで、おとぎ話に出てくる『彼ら』に、よく似ていた。
「それじゃ、初めてのデート、しっかりエスコートさせてもらうよ、お姫様」
「はいっ、最後までよろしくお願いしますね、王子様?」
雪のように真っ白なスーツとドレスに身を包む2人――初々しい王子と姫の顔は、ほんのりと赤く染まっていた。