■クロノス大祭『〜Vicino a te, Il mondo sembra sempre bellissimo〜』
永遠に回転と交差を繰り返す針が、カチ、とまた一つ新しい時を刻む。ラッドシティの公園にある、待ち合わせにも使われる大時計そばのベンチでは、レイとラゼルが二人っきりのデートを続けていた。「綺麗だな……。雪と砂がこう、夜の明かりにすごく映えててさ、ラゼ」
「おまえのほうが。もっときれいだぜ、レイ」
「あーっ! それ、もっと最高のタイミングで言おうと思ってたのに!」
「そう思って、くれるの。すごく嬉しい、よ?」
クロノス大祭の夜はやはり寒く、自然に二人は身を寄せて、同じマフラーを首に回しあっている。吐息と体の熱を布地へさらに編みこめば、どんな冷風も入れない鉄壁のガードが出来上がり、混ざる体温に心地よく浸りながら、二人は組んだ腕の中をこそ魂の居場所として、ずっとずっと、そこにいた。
「二人だと、あったかい……ね」
ラゼルは幸せそうな顔でレイに告げる。言われた言葉に嬉しさが募り、レイは顔を赤く染めながらも口元を綻ばせ、抱く腕と繋ぐ手に想いの力を込めた。
「……どんな時だって、ラ、ラゼと一緒なら、寒い思いはしないし、……させないぜ」
「う、ん……」
レイがひどく恥ずかしい台詞を照れながら言うのを、ラゼルもまた心臓を高鳴らせて聞き、にこにこ微笑みながらレイの体へと倒れこむ。そして、あっ、と思い出したようにラゼルは自分の懐を探り、そこから一双の手袋を取り出した。
「ラゼ、それは?」
「うん、レイのそっちの手。ポケットよりも、いいかなって」
ラゼルが手袋を二つに分けて、左手側をレイ、右手側をラゼルが装着する。ラゼルの言うとおり、左手をずっとポケットの中にしまっていたレイは、そうしてフリーになった手でラゼルの額を撫で回した。
「ありがとな、ラゼ。できればこっちの手でも、ちゃんとあっためてやりたいんだけど――」
「それだと、真向かい、で。レイに座ったりとか、座られたり?」
「ぶっ!?」
想像したレイが、そっぽを向き口元を押さえる。数秒の後に周囲を見回すが、時刻はまだ宵の口、公園には人通りも多く、そうでなくとも屋外では、想像した行為はレイにとって無理な注文であった。
「ラゼ、すまん、そういうのはまた今度――じゃなくて……あの、十分あったかいよな? な?」
「レイの、リクエスト。だから、がんばるよ!」
「あ、ああ……」
えへへ、と眼前で笑ってやる気を見せるラゼルに、レイは嬉しさを戸惑いに隠して言葉を濁す。そんなレイの様子に、ラゼルは燃える悪戯心にさらに焚き木をくべながら、レイの耳元に口を近づけた。
「ラゼ?」
「おうち。かえったら……」
ラゼルは、レイの無防備な耳に、ふっ、と熱い吐息を囁きかける。
「もっと、あったかくなること。しよう、ね?」
一瞬で唇のように赤く染まるレイの耳たぶに、ラゼルは甘噛みの跡を残して顔を離す。そして、ずっとヒートしっぱなしの恋人のぐるぐるの目を、ラゼルはそれからもずっと見つめ続けていた。