■クロノス大祭『Memorial Day』
「寒くないか?」「うーん、少しだけ寒い、かな……」
今日はクロノス大祭。ウセルとキウ――2人が付き合い始めてから、1周年の記念日であった。
「ほら、一緒に温まろうか。こっちにおいで」
「ん……」
ちょうど、時計塔の下にベンチがある。ウセルはそこに座り、大判のストールを広げた。2人で寄り添いあって温まろう、ということだ。キウも、それに素直に従う。
「あ……本当に怪我とか、してない?」
「私は平気だよ。キウは、平気か?」
「ええ」
そう言いあって、2人はにこりと笑いあった。ベンチの上から降り注ぐ明かりが、2人の姿を優しく照らしている。その為、薄暗い中でも、互いの姿をよく見ることが出来た。
クロノスメイズでの激戦を終え、辺りは既に暗くなっていた。夜の闇に、金の砂と白い雪が映える。とても、幻想的な光景であった。
「何度繰り返しても、やっぱり心配になるのよね」
「はは……まあ、それは私も同じさ。危険が伴うことなんだ、心配するよ」
つい、近くに寄ると心配になってしまう。それだけ、凄まじい戦いだったのだ。今日1日のほとんどを2人は共にしているものの、その思いだけは変わらなかった。
キウをストールの下で抱き寄せながら、ウセルはほっと一息付いた。こんな寒い冬空の下でも、彼女の温かさは変わらない。それだけのことではあるが、とても安心する。
「祭りも、賑やかだったな」
「そうだね。楽しかったなぁ……」
クロノスメイズの後は、2人仲良く祭りの満喫もした。並んで足湯に浸かったり、2人で贈り物を贈りあったり、舞踏会でダンスをしたり。折角の祭りの日なのだ。悪くない過ごし方であろう。
「足湯、暖かかったね。あとこれ、本当にありがとう」
「こちらこそ、大切にするよ。舞踏会は綺麗だったな……キウが」
「ちょっと……っ」
互いに贈った贈り物の包みを見せ合いながら、2人はもう1度、顔を見合わせて笑った。
「しかし、色々あったな……この1年間」
「そうだね。やっと、1年だね」
「むしろ、『もう1年』の方がしっくりくるかな、私は」
今日1日の思い出に、2人で1年間過ごしてきた思い出。考えれば考える程、沢山出てくる。そんな、大切な思い出を2人は語り合った。
しばらく2人で話しながら、何となく、ウセルはキウの横顔を眺めた。美しい黒髪に、金の砂と白い雪が少しだけ積もっている。
「何? どうしたの?」
視線に気付いたのか、キウはきょとん、と首を傾げて見せた。ウセルはストールを手で引き、キウをさらに密着させる。
「愛してるぞ、キウ。いつまでも一緒に……」
一瞬だけ、キウは驚いていた。しかし、その表情はすぐにはにかんだ笑みへと変わる。
「私も。来年も、再来年もずっと一緒、ね」
2人の影が、唇が、ゆっくりと重なっていく――それは、来年も一緒にと願う、祈りの口付けでもあり、誓いの口付けでもあった。