■クロノス大祭『初雪』
「ほ。こりゃ凄い……準備万端じゃね」テーブルに並べられた料理を見たマンジが感嘆の声を上げた。その横でルゥの義弟である豆狸のぼんが瞳を輝かせている。
テーブルの中心に主役と言わんばかりに鎮座するケーキ。見た目も鮮やかで美味しそう。
「そのケーキはラッドシティで食べ比べた中でも一番美味しかったケーキ屋さんのケーキだよ」
ルゥが得意げに微笑む。
「のぅ……これは……」
高く積み上げられた稲荷を見たマンジが何か言いたそうだ。
「それは、我が嫁の大好きな稲荷でクロカンブッシュを作ってみたんだ」
得意満面な笑顔を浮かべるルゥ。
本来のクロカンブッシュは、小さなシューを円錐型に積み上げた飾り菓子だ。それを稲荷で作るとは嫁への愛を感じるマンジ。
渾身の力作を喜んでくれるだろうかとドキドキしながら嫁――仔狐のごんを見ると、瞳を輝かせて尻尾をぱたぱた振っている。
どうやら気に入ってくれたようで、ルゥは安堵の笑みを浮かべた。そのまま小さな嫁を抱き上げ、金砂混じる雪が良く見えるように窓辺へエスコート。
ごんは抱き上げられて、びくっと少し緊張した様子を見せたものの、窓の外を見て、再び尻尾を振ってご満悦だ。
窓の外を眺めて尻尾を振るごんの背を愛おしそうに優しく撫でるルゥ。背を撫でられたごんは、おずおずとルゥに擦り寄った。
「おやまぁ。らぶらぶじゃのぅ……独り身には辛い空間じゃわぃ」
冗談めかして呟くマンジは、いそいそとケーキを食べ始める。
ぼんも、ルゥとごんがイチャついていようと、我関せずでテーブルの上の料理を頬張っていた。
「……で、お義父さま、ケーキは僕の分も残しておいてくれると、嬉しいかもしれません」
ごんを優しく撫でる手はそのままに、ルゥがマンジの方を振り返って軽く苦笑する。
ケーキを食べるマンジの横には、気の済むまで食べて満足げな顔で、いつの間にかイビキをかいているぼん。
「んん? けーきはルゥの分迄ワシが美味しく頂いとくけぇ……存分にらぶらぶしといたら良ぇよ」
ぼんの丸い腹を撫でつつマンジが笑った。