■クロノス大祭『独り身師弟同士の過ごし方』
――恋人達に、言葉はいらない。今日の様な特別な日はなおの事。
しかしそれは、恋人達だけには限らないようで……。
例え金色の砂が降り注ごうと、この市場にみなぎる活気だけはいつも通りだった。
とりわけ、裏通りに連なる酒場には相も変わらず、泥臭い声が満ちていた。
「まー、今年も変わらずってぇ奴だな……」
この男、グランダムもまた、何一つ変わらぬ日常を過ごそうとしていた。
別に、飲みに誘った奴等全員が『今日は予定が……』とか『いやー、明日だったらいいんですけどね』なんて断られた、なんて寂しい事は無い。
決して、無いのだ。……決して。
「……酒場でも行っとくかねぇ」
何故か心に一抹の乾燥感を覚えるが、それは体が酒を欲しているからだ。そうに違いない!
グランダムは溢れ出しそうになる何かをぐっと抑えてスイングドアへと手をかけた時、知り合いに気がついた。
「うぅー……身も心も寒い……。どこかお店でもはいろっかなぁー……」
それは、ちょうど反対側のスイングドアに手をかけながら呟くシオンの姿。
――瞬間、2人はまるで鏡を見ているようだと、そう思った。
言葉が無くても伝わる。なんて、独り身の自分達には縁遠い言葉だと思っていたのに、何故か相手の意思が伝わった。
そう、相身互い、鏡に映った自分自身。
理解なんて、一瞬だった。
「「(ガシッ……!)」」
気がつけば、グランダムとシオンの腕はガッチリと組み交わされていた。
そう、我らは同志。
「……飲むかぁ」
「よし来い!」
さぁ、存分に朝まで飲み語り合おうではないか!
2人の腕はガッチリと交されたまま、スイングドアの奥へと消えていく。
――今年も、何だかんだで独り身師弟は、楽しくやってます。
「クロ充爆発しやがれってんだ!」
「そうだそうだ! クロ充爆発しろー! やけ食いだぁー!」
ただほんの少し、その日の酒は何だかしょっぱかった。
「ちくしょー! 独り身モノはやっぱこんなオチかぁー!」
「まー、俺ららしくていいんじゃねぇの?」