■クロノス大祭『奇襲』
カツカツと、固い音が夜闇に響く。石畳とヒールがぶつかる音だ。ヒールの主は美しいドレスに身を包んだ少女だった。ラフィールはスカートを邪魔そうにしながら、目的地へと歩いていく。
頬が少し赤いのは、呼び出されたことへの怒りからか、あるいは慣れないドレスの気恥ずかしさからか。
視線の先には、ペルセフォーネが闇に映える青いドレスを着て待っていた。
「まったく、私は忙しいのよ! それでどうし」
ラフィールが照れ隠しにふてくされて言う。ペルセフォーネはそれに動じた様子もなく紅いペンダントを見せた。
「……プレゼント?」
ペルセフォーネがラフィールの気性に合わせて選んだ、炎の色。気に入ったようで、ペンダントを見たラフィールは顔を輝かせる。
「……ラフィールさん、つけてあげます」
ペルセフォーネは、無表情の下に秘めた想いを少しだけ載せて言う。それに気付かず頷いて、ラフィールはつい、と首を差し出す。
瞬間、起きたのは予想外の出来事だった。
――――!?!?!?
唇の温かい感触。間近にあるペルセフォーネの顔。
ラフィールは唇を奪われていた。ペルセフォーネに。ひとつ年下の少女に。
押し寄せてくる混乱。いろんな可能性と思考が脳裏を駆け抜けていく。やがて、最近遊んでやらなかったからか、と一応の答えを得る。
(「今度、ボール投げでもしてやるか」)
背伸びをして、そっとペルセフォーネの頭に手を置く。ペンダントの感謝と親愛を込めて、いつもより多めに撫でてやる。
一方でペルセフォーネには別の思惑があった。それは、変わらぬ表情に秘める想い。
――私より年上なのに、なぜ私の気持ちに気づいてくれないのですか? 確かにあなたが好きな大きな胸を持ってないけど、あなたを想う気持ちは負けないつもりです。というか、胸はこれから大きくなります。現にあなたより大きいのですし。
自分を撫でる手に、自分の手をそっと重ねる。それは言葉にならない、甘い愛の囁きだった。
――私の愛、受け止めてくださいね。撫でられるだけではごまかされませんから。
「…………♪」
唇のぬくもりに、ペルセフォーネは目を細める。今夜だけは、その無表情もほんの少しだけ柔らかかった。