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2人でクロノス大祭

昏錆の・エアハルト
花渫う風・モニカ

■クロノス大祭『光る雪白、降る金砂』

「わ、すごいよ見てみてエアさん!」
 モニカに言われ、エアハルトが上げた視線の先。そこには、時計塔があった
 いや、ただの時計塔ではない。仕掛けられた絡繰人形が動き、それに合わせて流れるは愉快な音楽。ところどころに灯されている明るい光が時計塔を飾り立て、さながら一つの芸術作品、モニュメントのよう。
 天からの恵みのように、降り注ぐ金色の砂と白雪が、更に時計塔を飾り立てる。モニカでなくとも、この光景に心惹かれない者などいないだろう。
 可愛らしくも美しい、まるでどこかの絵本のような情景。いや、絵本の中に、自分とモニカとが入り込んだかのようだと、エアハルトは思った。
 時計塔を見て、モニカに視線を移す。笑顔を返すモニカに、エアハルトも相好を崩した。
 クロノス大祭を楽しんだ、今日の一日。その思い出も相まって、いまだ気分は高揚中。自分もそうなのだから、モニカは言うまでもないだろう。
 景色の煌めきにも似た、暖かな光にも似た、心地よい気持ち。それが胸中に満たされるのを、エアハルトは感じ取っていた。
 くすぐったくも、優しく心地よい気持ちが。

「……」
 出ない。
 言葉が出ない。ここで一言、気の効いた台詞でも、洒落た言葉のひとつでも出そうと思うも、なぜかそれが出てこない。
 普段は、隣にいる少女をからかい、その反応を楽しんでいる。わざと怒らせる事を言ってふくれっ面にさせたり、斜め上な答えに突っ込んでみたり。
 なのに、今宵は言葉が出ない。
「どうしたの?」
 モニカの問いかけに、エアハルトは彼女へと顔を向けた。
 いつものようなじゃれ合う言葉が、今日のこの時には出てこない。代わりに口から出てくるのは、白い吐息のみ。
 唇の端を上げ、まなじりを下げつつ……エアハルトはようやく一言だけ、言葉を放った。
「……綺麗、だな」
 その言葉を聞いて、一瞬きょとんとしたモニカだが、すぐに大輪の花が咲いたような笑顔とともにうなずいた。
「うん! すっごく、すっごく綺麗!」
 言葉が出ない? それでも別に構わないだろう? 幸福がここに、十分すぎるほど自分の手の中にある。
 言葉が出なければ、行動でそれを示せばいい。すっ……と、エアハルトは手を差し出した。
「……よっし、もう少し祭りを堪能してくるか」
 彼の差し出した手を、一回り小さな手が握り返した。その手の持ち主は、満面な笑顔と共に、不敵な台詞を口にする。
「当ったり前よー! 勿体ないじゃあない! お祭りってのは、楽しみつくさなきゃあ!」
 手を繋ぐ二人へと、時計塔の鐘の音が鳴り響いた。
 再び二人は、飛び込んだ。
 金と白、輝く世界の中へ。心地よく優しい、光踊る空間へ。
イラストレーター名:兎月郁