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2人でクロノス大祭

星蝕・ロットバルト
夢見る暴力・フィグ

■クロノス大祭『とくべつな日常』

 窓の外、降る雪と金色の砂に僅か目を細めて、煙管の煙を揺らす。
 なるほど、確かに特別な。
 思考の隙間に、するり、衣擦れ。かすかなベッドの軋み。
 ちらりと視線をやれば、赤茶けた髪の娘が悪戯気な笑みを口許に載せて、猫のようにしなやかに、ロットバルトの膝にその頭を預けるところだった。
 赤の強い紫の瞳が、挑むように見上げてくる。
「ねぇロット、偶にはこういうのも良いでしょう?」
「……重い」
 溜息と共に煙管の灰を落とすのは、それでも彼の優しさだろうか。
 気怠げな所作で持ち上げた大きな掌が、娘──フィグの柔らかな髪を撫でた。
 嬉しそうに目を細め、喉でも鳴らしそうな彼女の姿に、ロットバルトは低く囁く。
「いつからこんな子供染みた真似するようになったのかね、我が従者殿は」
「いっつも子供扱いするじゃあないの」
 拗ねたようにその掌に額を寄せる彼女。
「首級預けて見上げるのも、中々良いものよ。アナタにだもの」
「おれがお前を見下すのは当然」
 息を吐いて淡々と言う、いつも通りの彼の姿に、フィグはくすり、微笑を零す。
 こうして『日常』を共に過ごせることの、なんと幸福なことだろうか。
「足痺れる程ヤワじゃあないでしょ、ね、も少し」
 髪を撫でる主の手を掬い上げ、そっとその大きな掌に口付けて。
「次はワタシが遣ってあげるわよぅ」
「……いらねェ、」
「要らないってぇのは言いっこ無しよ?」
 言い掛けた彼の言葉の先を取って、得意気に笑う彼女。どれほどの『日常』を過ごしてきたと思ってるの、アナタのことなら判るのよ。今日だけは、そう自惚れさせてちょうだい。
 そんな彼女の思いでも伝わったか、彼はほんの少し、照れ隠し。
「ふみゃっ、」
「ふん……いいんだよ、おれは」
 きゅ、と彼女の鼻を抓んでやれば、その手を払い、もう、と視線を逸らして彼女は唇を尖らせる。
 照れるのも可愛らしいけれど、もう一寸素直になっても良いのに。
 そんな彼女の、視界が陰る。
「……?」
 見上げた傍に、銀色の双眸。
 微かに軋むベッド。重なる影。温かな、くちづけ。
「この方が、……好きにできる、だろ?」
 ふ、と口許を緩めて笑う彼。彼女は目を丸くして、それから笑みを返す。
「そうね。ワタシも、それがいい」

 だめね、まだまだ判らない。
 アナタといるだけでワタシにとってはいつでもそれは、『とくべつな日常』なんだもの。
 
イラストレーター名:兎月郁