■クロノス大祭『聖なる夜のハプニング』
厚い雲のかかった空から降ってくる真っ白な雪と、それに混じる金色の砂。美しいその光景を庭先に出て眺めているのは、庭の持ち主であるリディアと、その恋人であるニノルダだ。
「わぁ……! 雪に黄金の砂。すごく綺麗だよ……!」
まるでおとぎ話に出てくるような幻想的な光景に、リディアは子供のようにはしゃいでいる。
「そうだね、こんな光景僕も初めてだよ」
ニノルダもまた美しいその光景に目を見張りながら、彼女に視線を向けた。
地面に薄く積もった雪に、リディアは楽しそうに足跡をつけている。
「そんなにはしゃいでいると危ないよ?」
心配そうにそう声をかけるニノルダに、リディアはくすくすと小さな笑い声をこぼした。
「大丈夫よ。ニノルダったら心配性ね」
言いながら軽やかにニノルダを振り返った矢先、彼女は足を滑らせる。
「リディア!」
思うよりも早く、ニノルダはリディアに向かって手を伸ばした。
どうにか支えようと力を込めるものの、ニノルダも雪に足を取られ、結局二人一緒になって地面へ倒れこんでしまう。
「リディア、ケガはない!?」
彼女の体を気遣って、ニノルダは声を上げた。
「うん……ありがとう」
お礼を言いながら、リディアはゆっくりと体を起こす。
ふと、ニノルダと目が合った。リディアは思わず自分の体勢を確認する。
これではまるで、自分がニノルダを押し倒しているようではないか――。
置かれた状況を理解した途端、リディアの顔は一瞬で耳まで赤くなっていた。
ニノルダもまた自分たちの状態に気付き、同じように頬を染めてうろたえる。
「と……とりあえず退いてくれない……っ?」
赤面して固まっているリディアから視線をそらしながら、ニノルダは呟くように訴えた。
「あっ……ごっ、ごめんね……!」
リディアは慌ててニノルダの上から飛び退く。恥ずかしさのあまり、リディアの目にじわりと涙がにじんだ。
ニノルダの顔を直視することができず、リディアはくるりと体ごとそむけてしまう。
立ち上がったニノルダは、背を向けた彼女におもむろに近付くと、包み込むように抱きしめた。
「……ケガ、なさそうでよかった」
優しくかけられた言葉に、動揺していたリディアの心は少しずつ落ち着いていく。
「うん……ニノルダが守ってくれたから。ありがと……」
リディアは回された手に自らの手を重ねると、そっと目を閉じて微笑んだ。
静かに温もりを感じあう、リディアとニノルダ。穏やかなひと時に、二人は酔いしれるのだった。