■クロノス大祭『舞い降りる星に想いをこめて』
不思議な変化を見せる、巨大時計から少し離れたこの場所。魅せる景色は美しいけれども、しん、とした静けさのある場所だった。楽しそうに先を歩く、ルナを見つめながら、エルシュヴァルツは、長めの赤いマフラーに顔を埋めた。
「わあ……」
空から舞い降りる雪と、金の砂。今日という日に相応しい、美しい星空。
くるり、と一回転してから、ルナはエルシュヴァルツに微笑んで見せた。
「とっても綺麗……! まるで、空から星が舞い降りてくるみたいです!」
ルナが伸ばす、白い手に落ちた金の砂と雪は、すぐに消えてしまった。それは儚くも幻想的な、そんな美しい光景である。
「……そっか」
「わわっ、え、エルさん!?」
くすり、とエルシュヴァルツは笑い、そっと、後ろからルナを抱き寄せた。
「これでは、冷えてしまうね」
ルナを抱き締めたまま、エルシュヴァルツはマフラーをルナにも巻いてやった。必然的に、密着するような体勢になってしまう。
その体制のまま、しばらく2人は星空を見ていた。ふいにエルシュヴァルツが笑い、口を開く。
「……雪よりも星よりも、ルナの方が綺麗だよ」
「! ちょ、ちょっと……エルさん……!!」
ボンッ! という効果音が似合いそうな程に、ルナは一気に顔を真っ赤にしてしまった。エルシュヴァルツは両手で顔を覆ってしまった彼女の体をそっと回し、向かい合わせにした。
「……見えてるよ、顔真っ赤」
「もう……っ、エルさん意地悪です……!」
とはいえ、ルナは怒っているわけでもない。むしろ、恥ずかしさの中に嬉しさが見え隠れした、そんな表情をしている。彼女がそっと手を下ろすとすぐに、エルシュヴァルツの漆黒の瞳と目があった。
「ねえ、ルナ」
何だろう、とルナが首を傾げていると、エルシュヴァルツに耳元で「キスしても良いか?」と囁かれた。
「…………っ!」
再び、顔が赤くなってしまう。ルナは小さく、本当に小さくこくり、と頷いた。
「……ありがと」
エルシュヴァルツが優しく微笑みかける――刹那、互いの唇が、軽く触れ合った……それは長くはない。短い、ほんの僅かな時間だけ。
唇を離す。どちらのものかは分からない、白い息が空に消えた。
「ルナ。また顔真っ赤」
「もう! エルさん……!」
トン、とエルシュヴァルツの胸に、ルナがもたれ掛かった。
「何度も顔が真っ赤になるくらい……それぐらい嬉しいのです。幸せなのです……」
耳まで真っ赤になってしまった顔は上げずに、ルナはそう、呟いた。
一瞬、エルシュヴァルツは驚いてしまったが……すぐに、再び優しげな笑みを浮かべていた。
「俺もすごく嬉しくて、幸せだよ」
きらきらと星空を舞う、金の砂と純白の雪。そして、再び重なる、2人の影――そんな幻想的な景色は、幸せな2人を祝福しているかのようにも見えた。