ステータス画面

2人でクロノス大祭

黎明の武芸者・ミナタ
無垢の導・シキミ

■クロノス大祭『雪の色は違えども、それは同じで』

 クロノス大祭を迎えたラッドシティは、街中どこも浮き足だった空気に満ち溢れている。
 そんな中を歩くミナタとシキミもまた、二人並んで浮いていた。ただしそれは周囲に対して、と言った意味合いで。
 この寒空の町を満たす祭りへの熱気と、それに対して二人の示す淡白な反応の温度差が二人の存在を浮き立たせて見せるのだ。
「何で、お祝いするんでしょう?」
「さあ。この都市で年に一度、この日に起きる異変を吉祥と捉えたのが始まりなのだろうが……」
 書に多く親しんできたシキミは、この異郷の習俗にある程度通じている。だが当然ながら、物事をただ知っているのと理解しているのとはまた別の話だ。
「でも、新年もまた別にお祝いするんでしょう?」
 なのに、何故この時期にお祭りを? そのミナタの疑問はシキミも等しく抱いていて、答を持ち合わせない彼女は「さてな」と軽く首を傾げると、それ以上その解を探す事はせずに歩を進めた。
 ミナタも重ねては問わず、その背中に続く。遙かアマツカグラで人生の大半をただひたすら己が『道』に捧げてきた二人には、他の都市の行事の由縁など殊更拘るほどの事ではない。
 二人にとり今は、開始間近のクロノスメイズ探索がよほど実になる大切な事と思えた。

 だから程なく、いずれともなく足を止めたのは街の様子に気を取られたから等ではなく。

「雪、でしょうか。シキミさんっ」
「ああ、雪、だな」

 ――ふと見上げた空に、よく慣れ親しんだモノの姿を認めたからだった。

 雪。黄金色に輝く空から降り来るそれは純白に金色を交え、地面に舞い降りる。一片、ふわりとミナタの肩に辿り着いたそれは、彼の温もりにすぐに形を失った。
 周囲で、わっと沸き起こる子供達の歓声――そして、あちこちの時計塔から流れ出す陽気な音楽。それを聞くシキミは、「ああ」と思う。
「……空は何処までも広がっているというが、雪もやはり、同じなのだな」
 後から後から降り来る雪と金の砂が、融けるより早くにミナタの身体に降り積もる。その様子をまじまじと眺め、シキミは小さく笑って近くの階段に腰を下ろした。
「変なシキミさんですね。色は金色ですよ?」
 ミナタはそんな彼女にきょとんとした表情を浮かべ、だがすぐに笑ってその隣に腰を下ろすと頭に載った金銀の雪を払ってやる。
「それでも、降り続く様は似ているよ、ミナタ」
 シキミもまたミナタの雪を払い落とし、それから今度は雪を迎えるように虚空へとそろりとその手をさし伸ばした。それを追いかけるようにミナタの手も高く、こちらは無邪気に勢い良く差し出される。
 ……綺麗で儚いこの一日の雪に、この都市の人々は想いを掛けて祭りを育んで来たのだろうか? 文化は違えどが同じ人間の営みを、二人は初めて興深く思う。
 この雪と同じで、きっとそこに何も違いはないのだと。それに気付いた事にほのかな暖かさを胸の中に感じつつ、二人はしばし雪舞う空を見上げていた。
イラストレーター名:遊佐