■クロノス大祭『2人だけの世界 2人だけの時間』
クロノス大祭の話を聞いたあと――約束をした。祭りを抜け出して、二人で……。
「なんだこのヒラヒラは……どうして僕がドレスを着てるんだ?」
着たくない、着たくない、着たくない……。
すでに美しい白いドレスを身にまといつつ、レイルは口の中でぶつぶつと文句を言っていた。
「シアは可愛いから問題ないのにー」
不満げな口ぶりのレイルに対し、ユキカゼはにこにこしつつ、のほほんと言い切った。
ユキカゼもまた、レイルと対の白い礼服に身を包んでいる。
「かわ……っ! ……問題はそこじゃない!」
「そんなー。だって似合うからいいと思うけど?」
ぶちぶちぶつぶつ、止まらないレイルの不満に「まぁまぁ」とユキカゼが応じ――そんな二人の会話は平行線で。
「もう……良いから良いから」
ユキカゼはそう言うと有無を言わさずレイルを抱き上げた。
突然抱き上げられたことにレイルは驚いた。
驚いて、ユキカゼとの顔の近さにややたじろぎ、ひゅあっと喉の奥から声にならない音が漏れる。
「……ユキっ」
レイルの顔は真っ赤になりつつも、内心嫌ではなく、暴れることはない。そんなレイルの心を見抜いているユキカゼは真っ赤になって睨みつけてくる……それでも暴れず、ユキカゼに抱かれているレイルににこりと笑った。
「可愛い」
「!!」
また何を言うか、とレイルは口を開きかける。
だが、レイルが口を開くより先にユキカゼが言葉を紡いだ。
「ありがとう、シア」
軽く押し当てるように、ユキカゼはレイルの頬に自らの頬を当てた。そのまま耳元でそっと、睦言を零す。――レイルにだけに紡ぐ、甘い囁きを。
「――大好き」
静かな声音だった。けれど、想いのにじむような言葉だった。
青い瞳はまっすぐにレイルを見つめる。
その視線からも大好きだと、愛しいのだと……想いはにじむようで。
レイルは真っ赤になったままで、微笑み返した。
声にはしなかった。言葉にはできなかったけれど。レイルもまた、ユキカゼと同じ気持ちで――そっと、唇が重なった。
どちらが先に重ねたのか、わからないまま。
まるで世界に二人だけのように思えた。少なくとも……二人だけの時間が今、ここに流れている。
一度唇が離れ、視線が絡まる。
ユキカゼとレイルは、再び微笑みあった。