■クロノス大祭『思い出が二人を繋ぐ糸になるように』
きらきら、金の砂が空を舞う。それに交じり合うような形で、白い雪が音も無く降り続いている。
「…………」
ぼんやりと窓から空の様子を眺めていたドロップが、隣で同じく空を見上げていたフィ二アリアへと視線を落とした。
(「雪の白だけなら、コイツに似ているのに」)
彼女の持ち合わせるイメージと、雪を重ね合わせて、ドロップが胸中でぽつりとそう呟く。
視線を感じたフィニアリアは、彼を見上げてきょとん、としていた。
自身が出不精なために、大祭であるこの日に部屋にこもりっぱなしと言う現在の状況に、彼はわずかな申し訳なさを胸に抱く。
そして次の瞬間、静かに口を開いた。
「アリア、デートに行こうか」
前触れも、そんな様子すらも感じさせなかった響き。少しだけのいたずらの色を含んだ言葉は、彼女からどんな反応が返ってくるかとの思いから生まれたものだった。
「…………」
ドロップからの突然の言葉に、フィニアリアは一度大きく瞬きをする。そしてまた目を丸くしてから、頬を染めた。ゆらり、と瞳が揺れる。
「……もう、私から誘うつもりだったのに、ずるいですよっ」
一拍置いてからの彼女の返事は、そんな響き。
不満のような声音であっても、内心からあふれる喜びをフィニアリアは隠し切れなかった。
ドロップの腕を引く形で部屋を出て、空をよく見渡せる小高い丘へと足を運ぶ途中も彼女はいつになくはしゃいでしまう。
「ねぇ、ロップ君、とてもきれいですね!」
白い雪と金色の砂が彩っている空を指差し、楽しそうにそう言う。
隣を歩くドロップは、彼女のそんな姿を見て目を細めていた。
(「ちょっと、はしゃぎすぎでしょうか……。でも、いいですよね? 今日はお祭なんですから」)
フィニアリアがそう、心で呟く。
それには当然ながら返事は無いが、やさしい笑みを浮かべているドロップを見上げて小さく笑った。
大切な、ひと。
誰よりも何よりも。手放せない、手放せられない存在。
それを再確認して、フィニアリアは一度口を静かに閉じた。
今ある幸せを、このままにしておきたい。逃げてしまわないように、約束が欲しい。
「あのね、ロップ君」
誰もいない丘の上、二人きりで空を見上げながら彼女は再び言葉を発した。
ドロップは黙ったままで、フィニアリアの言葉の続きを待っている。
「ずっと、ずっと。あなたを守らせてね」
その響きは、彼女の素直な気持ちだった。音にする事できちんとした形となり、ドロップへと運ばれていく。
彼は返事こそはしなかったが、笑みを絶やさずにいてくれた。それを確認して、フィニアリアはふわりとほほえむ。
夜空を舞う白と金の色は、そんな二人を包み込むようにして静かに降り続けるのだった。