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2人でクロノス大祭

ワイルドファイヤー・コーキネア
花に捧ぐ・レア

■クロノス大祭『時よ止まれ』

 余韻が残るものの、クロノス祭が終わりを告げようとしている真夜中――もうじき午前0時を指す頃。凛とした空気に、雪と金砂とがひらひら舞い降る。
(「いつもはヘタレな俺だけど……」)
 コーキネアは一つ、決意をしていた。
(「今日はこのロマンチックな雰囲気の後押しを借りて……今夜はキメる! カッコよくキメる!」)
 グッと拳を握り、深紅の瞳を見開く。
 隣には大切な唯一の存在……レアが並んでいた。
 名残惜しいけれど、クロノス祭も終わりだ。帰路につく道すがら、どちらからともなく手をつなぐ。レアの手は、コーキネアの手にすっぽりとおさまってしまうくらい小さなモノだ。
「『歌う時計塔』を見に行かないか?」
 歯車飾りのツリーを見に行った時に、遠くに見えたあの時計塔。
 コーキネアの誘いに、レアは「いいわね」と微笑んだ。

「今日は盛り沢山の一日だったな」
 勢いで突っ走ったクロノスメイズ――そして歯車で飾られたツリーも見に行った。
 今日の出来事を振り返る。楽しかった今日という時をレアと過ごせたことが嬉しい。
「レアからプレゼントで貰った緋色のファーも暖けぇし、俺がプレゼントしたレアの時計も似合ってる」
 やっぱり俺様が見立てただけの事はあるぜ! なんて軽口も交えたコーキネアの弾丸トークにレアは穏やかに応じる。
「ありがとう。嬉しいわ」
 コーキネアが喜ぶ様子と、受け取ったプレゼントと……それぞれに対して感謝の言葉を告げた。
 小さなレアが、贈ったコーキネアのファーにそっと手を伸ばす。「ふわふわ」と笑う彼女を、コーキネアは抱きしめたくて仕方なかった。
「レアは何が一番楽しかった?」
 レアの手を離さないように、手の力を込める。

 『歌う時計塔』の名にふさわしく、時計塔へ近づくにつれて、幸せな音楽が聞こえてきた。冷たさに空気が澄んでいるからだろうか、その音楽はどこまでも果てしなく響き広がるような気さえする。
「俺はレアと居るこの時間の一秒一秒が、何よりも一番楽しくて幸せなんだぜ」
 コーキネアはその時計塔の前で立ち止まった。レアもまた、足を止める。
 心臓が口から飛び出そうなくらい緊張していた。けれど、ここで止めることもできない。
 そっと向き合い、コーキネアはニアの淡い茶色の髪を撫でて、頬を両手で包み込んだ。想いを……言葉を目を見て伝えるために。
「でも今日は特別な日……だからもっととびきり幸せになってみてぇんだ」
 38センチの身長差を一気に詰めるようにして屈みこんだ。
(「時を刻む時計塔、今はちょっと休んでてくれよ」)
 レアの美しい緑の瞳は瞼の向こう側。
(「時を止めてこの幸せな時が永遠に続いて欲しいから」)
 淡い色の花を思わせるレアの唇に、そっと自らの唇を重ねる。
 ――聖なる夜に、初めての口付けを。

 鳴り響く音楽が遠くに感じる。重ねた唇と触れる体温……互いの存在を、より強く感じていた。
イラストレーター名:シロタマゴ